第27話 星を喰む夜⑤
「そりゃーそうなるかな。」
街角のベンチに座ったルナは微笑みながらつぶやく。隣には白い髪の少年、フェンリルがルナの肩にもたれかかりながら静かな寝息を立てていた。
仕事を終えて宿の部屋に戻った彼らだが、すぐまもなく夕方になるというので外に出ていたのだ。もちろん、ルナが行きたがった星喰市を見にいくために。
遠くを見ると赤い夕陽が少しずつ沈んでいく。考えたらフェンリルはほとんど昨日の夜寝てないはずなのよね。それなのに朝から市庁舎に行ってすぐ仕事して。ご苦労様だわ。
ルナは考えながら街を眺める。街を行く人はさらに賑わいを増す。どうもフェンリルが今日中に街灯を全て直すと市長に公言していたらしい。
何事もなかったかのように、お祭りが開かれるのが当たり前のように出店が集まり、次々と準備が行われていく。
小さい子どもの手を引く親子や、老夫婦の姿。みんな楽しそうにはしゃぎながら星喰市に出かけていく。
そして、いよいよ太陽がその姿を地平に隠すと街灯のセンサーが反応してマナランプが一斉に点灯する。
「わぁ!」
ルナは静かに歓声をあげた。光は街を明るく照らし、光の道を薄暗闇に作り出す。街の人々も足を止めてその光景を見ると、どこからともなく拍手が巻き起こる。
「灯だ!俺たちのハーメルンが帰ってきたぞ!」
誰かが歓声をあげる。ルナは気がつくと優しくフェンリルの頭を撫でていた。
そう。何もドラゴンを倒すわけじゃない。世界の危機を救うわけじゃない。それでもこうやって、人々の営みを守っているヤツがいるって事。
ルナは嬉しくて笑顔になった。わかってくれてる人がちゃんといるんだ。
長い拍手がやっと鳴り止んだころ、フェンリルは寝ぼけ眼をかきながらやっと目を覚ます。
「ごめん、寝ちゃってた。わ、肩ごめん!」
ルナはかぶりを振る。
「あはは、大丈夫だよ。」
そう言って立ち上がりながらフェンリルに尋ねる。
「帰って寝る?」
「いやいや、それこそ大丈夫だよ。」
そう言うと彼も立ち上がる。2人で並んで光に溢れる街並みに改めて息を飲む。
ふと、ルナの手がフェンリルの手に触れた。2人は目を合わさずに手を離す。そしてお互いを拒絶するかのように静かに掌を閉じる。手を繋ごうなんて気持ちが今後絶対に起こらないように。
「さぁ、行こう!」
何事もなかったかなように踏み出してフェンリルは笑う。
「うん。」
ルナもそれに合わせて歩きながら微笑む。
幻想的な光に溢れた街が2人を照らし出した。
そう、これで良い。
僕は彼女を元の世界に絶対に返してあげると誓ったのだから。
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