第25話 星を喰む夜③
朝ルナが目を覚ますと、大海のようなベッドには彼女1人が横たわっていた。目を擦りながら大きなあくびをひとつ。
そうだ。結局宿の部屋は変えてもらえなかったからこの部屋にはベッドがひとつしかないのだろう。
「それもあってアイツは遠慮したなぁ?」
一人そう呟きながら、そっとドアを開ける。広い部屋の中央には大きなガラスのテーブル。上にはキチンと手紙が仕分けされ、理路整然と並べられた半開きの封筒にはそれぞれ分厚い返事が入っている。
どうやら全部の仕事を片付けてしまったらしい。
机に突っ伏して眠るフェンリルを、カーテンの隙間からさす光が優しく映し出している。
ルナは音を立てないように窓辺に近寄ると、わずかなカーテンの隙間を閉じる。光が顔に当たって目を覚ましてしまったら不憫な事だもの。
彼女はそのまま音を立てずに身支度をすると宿の外に出た。朝の凛とした冷たい空気が清々しい。そのまましばし石畳をなんとなく散歩してみる。
朝早くだと言うのに洗濯物を干すおばちゃんやら店の準備をする人などがせわしなく働き、早朝特有の独特の雰囲気を漂わせている。
ルナは少し歩いて街の城壁までたどり着くと、物見台から荒野を見る。薄明が雲を薄く照らしている。どこかのパン屋からだろうか、パンを焼く良い匂いがただよう。
風が頬にあたり心地よい。ルナはしばし薄雲を照らす太陽を眺めながらストレッチをする。
こうしているとバレー部の先輩を思い出す。今頃みんな何をしているのだろうか。いや、考えても仕方のない事か。
意識を振り切るかのように朝の空気を思い切り吸い込む。
「帰り、パン屋でなんか買っていくか。」
そう言って朝の散歩を終える。匂いを辿ってパン屋を見つけると、軒先にベテランの女性がバゲットの入った大きなカゴを並べているところだった。
「おばちゃん、サンドイッチみたいなのある?」
女性は朗らかに微笑む。
「あら、可愛いなまりだね。リピシアの出かい?」
そう言うと小さな手籠に入った薄切りのバゲットを1枚手渡してくれる。ウェルカムの小品を兼ねた試食と言ったところだ。
「ありがとうございます。いいえ、サイタマです。あっ、小さな村なので多分ご存知ないかと。」
私はニコリと笑ってパンを頬張る。焼き立てのほかほかとした香りに、噛めば噛むほど程よい塩気と甘さが広がる。私は思わず笑顔になる。
「美味しいです!おばさまも"レェ"の発音が"ルェ"と似てますね。リピシアの出です?」
パン屋の女性はガハハと笑う。
「そうなのよ。あっちの地方は言葉が違うから覚えるの大変なのよね。"サイタマ"は知らないけれどあなたが異邦人っぽいなまりだから、ついお仲間かと思っちゃったわ。ごめんね!でもとても綺麗な言葉遣いよ。あなた賢いのね。」
彼女はそう言うとサンドイッチを手渡す。
「これは私からのお詫びよ。いきなり変なこと言ってごめんなさいね!」
そう言うとまたガハハと笑う。
「わぁ、ありがとうございます。それじゃぁ、相方がいるので彼の分も買っていきます!」
そう言ってサンドイッチを選ぶと通貨を支払う。部屋に戻るとフェンリルは起きており朝のコーヒーを淹れていた。
「さぁ、フェンリル。朝ごはんよ!」
そう言ってルナは笑顔。
元気は出さなきゃ出てこない。やはり私はこうでなくては、と寝ぼけ眼のフェンリルの肩を叩いた。
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