第13話 大図書館よ歩き出せ②
「お、お見苦しいところをお見せしてしまいました。」
真っ赤な顔で震える声を絞り出す。その少女は緑色の髪。丸いメガネ。ちょこんと小さい身体を白いローブに包んでいる。
「そ、そして今、お、お見苦しいところを更にお見せしています!」
そう言って大きなため息をつく。彼女の部屋に案内されたフェンリルとルナも目を見開く。部屋いっぱいに散らばった紙の束。机の上には描きかけと思われる紙がまた散らばっている。
「も、申し遅れましたが私はマリーダ。お、お金なら多少はありますのでどうか力をお貸ししていただきた、い、かもなのです。」
どうにも煮え切らない様子でもじもじと喋り、目を逸らす。フェンリルはハッと気がつく。
「マリーダ?もしかして"聖霊図書館マグネル"のライブラリアンの?」
マリーダもそれを聞いて驚いた顔をする。
「え、ご、ご存知だったんですね?!そ、そうなんです、"歩く大図書館マリーダ"とは実は私の事なんです。」
マリーダは、たははと申し訳なさそうに笑う。
「す、すみません、世に名高いマリーダがこんなので。よく幻滅されます。」
ゴニョゴニョとつぶやく。
「いいえ、お会いできて光栄です。」
フェンリルは深々と頭を下げる。
「なんなの?マリーダさんて?」
ルナは不思議そうにフェンリルの顔を覗き込む。
「マリーダさんは歩く大図書館の異名を持つ“渡航ライブラリアン"なんだ。巨大な書架に本を詰め込んで、地方を旅して回ってはその知識を広めているんだよ。西の荒れた土地では乾いた土地でも作れる芋を広めて。東の大河では反乱に備えて堤防の知識を広める。その偉業から“知識の女神"とも呼ばれているんだ。」
マリーダは饒舌に語るフェンリルの笑顔を申し訳なさそうに見ている。
「そ、そ、それはそうなんですが、全て先代の功績でして!わ、わ、私は4代目なのでこれからというか何というか。」
最後の方はゴニョゴニョと言いすぼむ。
「そういえば、"ビブリオ"はどうされたんです?あの、あなた専用の書架の」
フェンリルの何気ない一言にマリーダはピクリと肩を震わせた。
「そ、それが!実は!ぬ、盗まれてしまいまして!」
マリーダはそこで、今まで堪えてきたものが込み上げるかのように大声で泣き出した。
「うえ〜ん!館長さんに怒られてしまうぅぅ〜!」
マリーダはフェンリルにしがみ付いておんおんと泣く。
「お、落ち着いてください、そ、それで、そんな時にまたなんで本を」
くすん、とマリーダは鼻を鳴らしながらも部屋の奥に入っていく。フェンリルもそこで気がつく。部屋中に散らばっている紙。そう、これは普通の本などではない。そのインクの艶は黒インクなどではなく竜の血と同質の魔導素材。そしてそこに書いてあるのは魔法陣。
「そうかこれは、"魔導書"だ!」
フェンリルはその場にかがみ、紙を手に取る。
「しかもかなり高度な術式。」
フェンリルは鋭い目でマリーダを見る。マリーダも振り向き、泣き顔でうなずく。そしてしゃっくり混じりの声で続ける。
「ひっく!ビブリオは、ひっく!"山竜団"に奪われたんです・・・だから!そいつらをぶっ飛ばすの。手伝ってください!」
そう言って歩み寄るとフェンリルの手をギュッと握る。それをみてルナはまた一つため息をつくのだった。
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