第3話 パパはドラゴンスレイヤー①


石畳が美しい駅前広場は人通りがとても盛んだ。発達した市らしく大通りには馬車と機械車も何台か姿が見える。さすがここはサラバナ市の中央駅前だ。


白いボサボサ髪の少年と黒いロングヘアーの少女は駅の階段は景色に感激しながら大きな階段を下っていく。階段の下には馬車が2人を待ち構えていた。


「フェンリル様ですね。お待ちしておりましたわ!」


声をかけてきたのは赤い髪のツインテールの少女。身なりから察すると貴族の娘か。フェンリルと呼ばれた白髪の少年は慌てて一礼する。


「あれ?えっとラインハルト卿のお嬢様、ですかね?今日は従者の方が来ると伺っていたものですから」


慌てて服を整える。


「カレンと申しますわ。突然のご無礼、失礼いたしました。でも私、発明家……スチーマーの方がお見えになると聞いたら、いてもたってもいられなくて!さぁさぁ、こちらにどうぞ。」


ニコニコと笑いながらそう言うとその細い腕で荷物を運ぶのを手伝おうとする。しかしその手を遮って黒髪の少女がフェンリルの荷物をふんだくった。


「貴族のお嬢様はお気遣いなく!私は助手のルナです。よろしくお願いしますわ!」


ルナとカレンはキリッと睨み合う。年の頃16歳頃だろうか。カレンはルナやフェンリルと同じ年頃に見えた。


ふと、停車していた馬車の中から笑い声が聞こえる。姿を現したのは口髭を生やしながらも若い風態の大柄の男性だ。


「ははは。カレンよしなさい。スチーマー様が困っておいでだ。」

「ラインハルト卿!」


フェンリルは驚いて地面にひざまずく。貴族自ら駅に出迎えするなどあまりない待遇だ。


「いやいや、顔を上げていただきたいフェンリル様。カレンがどうしてもスチーマーを迎えにいくと言って聞かなくてね」


そう言いながら促されて一同が馬車に乗り組む。すれ違いざまに彼は静かにフェンリルに耳打ちする。


「なぁに、それはそれは入れ込みすぎるくらいなのだよ。どうか君からも釘をさしていただきたい。職人と貴族は持てる使命が違う、とね」


馬車で向かいあいながら座る。カレンはウキウキとした気持ちを隠しもせず熱い視線をフェンリルに向けていた。


「ずいぶんと気に入られたわね?ね?」


ルナは笑顔を作りながらも口の端がピクピクと動いている。フェンリルは助けを求めるようにラインハルト卿を見たが、彼も鉄面皮の笑顔を作るのみだ。


馬車が動き出すとやっとラインハルト卿は口を開いた。

「長旅お疲れ様でしたね。」


そう言って手渡したのは紙の束。それには詳細なレポートが書かれていた。文だけでなくスケッチも併記された本格的なものだ。


「これが書簡でいただいていた竜の情報ですか」


フェンリルはパラパラと紙をめくる。


「そうだよ。君が【ラクティドラゴンの青眼】の話をしてきた時に、もしこの条件が飲めるなら、と提示したそれだ。ドラゴンを専門とする研究員に出させたレポートだ。間違いはないと思う」


フェンリルはかいつまんで内容を把握する。


「テラバードドラゴンですか。この種はヒト食だ。しかももう成龍仕掛けている。」


「そうだ。なんとか今は旧要塞跡地に押し込めているところだ。もう一ヶ月になるか。しかしそれも限界だ。間に合ってくれて良かった。」


「この地図の通りの立地なら、すぐにでもこの都市に攻め込んできますね。」


フェンリルはこの近代都市に竜が飛来する様子を思い浮かべて、わずかに冷や汗をかく。ラインハルト卿は静かにうなずいた。


「最初に捕縛したときは立地的に向こうが要塞跡の盆地にいたので運が良かった。そのまま拘束ネットで押さえつけられたからね。しかし日に日に騎士団にもケガ人が出ている。今や要塞は夜戦病院のようになってしまってね。いよいよドラゴンを斬る必要が出てきた」


フェンリルは思考する。


「難しいですね。テラバード種は属性を持たないから逆にマナの類が効きにくい。物理で殴るしか対策が無いのが現状です。」


ラインハルト卿は表情を崩さない。


「しかしできないわけでは無い、という顔だな?スチーマー。」


ラインハルト卿の問いかけにフェンリルはうなずいた。


「はい。やってみますよ。"制竜剣"それができた暁には」

「いや、竜を倒せた暁には、だ。剣がなまくらでないかどうかは試させてもらう。」

「まぁ、そうでしょうね」


揺れる馬車は大仰な門を潜ると、広い敷地の屋敷に入っていく。


「どなたが振るわれるんです?騎士団のエース?」

「いや、私だ。」

「え?」


一同が総出で驚く。その中でもカレンは誇らしげにニンマリとした笑みを浮かべている。

「この領地最強はこの私だからな。スチーマー。良い剣を期待しているよ」


そう言うとその大柄な美丈夫は、停止した馬車から降りて行った。

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