第47話

 目が覚めたら当然ながら王子の姿はなかった。

 スパダリよろしく、俺はきちんと寝巻を着て、頭の下に枕があって、シッカリと肩まで掛け布団がかかっていた。もちろんシーツはとても清潔なものが敷かれていた。俺が昨夜どうなって、何がなんでどうしてしまったのかなんて、記憶の彼方に放り投げてしまったわけなのだがな。


「背中が痛てえ」


 腰に枕を置いたからなんだって言うんだ?王子が何かするたびに緊張してしまい、俺の背筋はいい運動をしてしまっていた。別に喉が痛いとか、ケツが痛いとかはない。ただ違和感が半端なくあるだけだ。


「お目覚めでございますか?」


 衝立の向こうから声がした。侍従が俺の声が聞こえたためにやってきたのだろう。


「ああ、うん。起きたよ」


 寝室には時計がないし、窓もない。おかげで時間がさっぱりわからなくて怠惰になることこの上ないというわけだ。


「朝の湯あみをなされますか?」


 おお、新しい選択肢が出たぞ。


「うん、そうさせてくれ」


 ケツの辺りがね、なんか変なのよ。湿っているというか、なんかこう、キモチガワルイ。

 そんなわけで湯あみをして、空中庭園みたいな庭でゆっくりと朝食をとっていたら、デリータがやってきた。


「お兄様に閨指導が入ったそうじゃない」


 開口一番そんなことを言われて、思わず飲んでいた紅茶を盛大に吹いた。もちろんデリータにかけるなんてことはせず、ちゃんと侍従もいない方に、だ。


「なによもう、落ち着きがないわね」

「そういう問題か?」

「違うの?お母さまは喜んでいらしたわよ」

「……はは」


 俺はひきつった笑いしか出てこなかった。


「お兄様がそう言うことに興味を持ったのだもの。素晴らしい進歩だわ。だからシオン。頑張って頂戴ね」


 デリータは何をどこまで知っているのかわからないが、後宮に男娼とはいえ男が入ってきたのだから、王妃様はもちろん、王様からも許可をもらったんだよな。なんか、すごいことだよな。


「それから、結婚式はおおむね半年後の春祭りの頃ね。私たちの結婚式が春祭りのフィナーレを飾るんですって」

「豪勢なことだな」

「祭りを盛り上げるのも王族の仕事なのよ」


 デリータはため息交じりにそう言うと、真剣な顔をして言ってきた。


「あんたはお妃教育しなくていいのよ。ありがたく思いなさい。わたしが国と結婚するから、私が国母となり国妃となるの。だからあんたは今まで通りお兄様と一緒に仕事ができるわ」

「俺、近衛騎士に戻れるの?」

「ちょっと違うけど。特別な騎士服を着てお兄様の隣にいることができるようになるわ」

「特別な騎士服ねぇ」

「同性婚は出来るけど、男の妃ってポジションはないんですって」

「まあ、そうだろうな。愛妾とか?」

「お兄様がそんな呼び方許さないわよ」

「俺ってば、愛されちゃってるんですねぇ」

 

 俺がおどけてそう言うと、デリータは肯定も否定もせずにほほ笑んだ。


「なんか新しい地位を与えるそうよ」


 それは楽しみですね。なんて、本心じゃないからな。

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