第46話

「香油を少し足すぞ」


 そう宣言して、液体がこぼれる独特な音が耳に響いた。

 俺と王子しかいなくて、聞こえるのは明かりのランプからの無機質な音だけだ。だから、王子が動いたときの独特なシーツのこすれる音とか、瓶の蓋を開ける音なんかが実に生々しく聞こえてくるのだ。しかも香油を足すというのだから、これからさっきよりももっと弄られるということなのだろう。何をされるのかはわかっているだけに緊張感は半端ない。

 いや、わかっているからと言っても、実際に王子の指がどんなふうに動いて俺のケツの穴がどんな感じなってしまうのかはまったくもって理解は出来てはいなかった。頭の中で想像できることは限られている。前世で子どものおむつを替えた時に何度か目にしたことはある。解放されたことにより、放出してしまうという現象だ。何となく思い出しつつ、そうじゃない。と自分にい聞かせたりなどしつつ気を紛らわせたりするものの、やはり限界があった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁああ」


 枕を抱きしめて俺は悶絶した。

 王子の指が想像とまったく違う動きをしたからだ。


「どうしたシオン。痛かったか?」


 痛かったらよかったよな。痛くなかったから問題なんだよ。なんて言えるわけもなく、俺は枕の陰からそっと顔を出し王子を見た。眉が少し下がっているのが何となく大型犬を思い起こさせる。金髪なのもまた想像力に拍車をかけるんだよな。


「痛くない。痛くないけど、何したんだよ。絶対第一関節より多く入れただろ」


 第一関節より先を入れない。なんて約束はしていないけれど、こんな恥ずかしい格好をさせられた俺としては、入れるなら入れると一声声をかけて欲しいのだ。心構えというものがあるからな。


「痛くなかった。ということは良かったのか?」


 王子が嬉しそうに言ってきたけれど、そうじゃない。


「違う。びっくりしたんだ」


 枕越しに答えると、王子は納得したような顔をした。


「そうか、驚いたのだな」

「そうだよ。何したんだ?」


 俺は知りたくはないけれど、聞いてみた。


「指をな、変えてみたんだ。人差し指よりも中指の方が長いだろう?」

「ソウデスネ」


 なんだよその理屈は。つまり中指なんか使ったから、指が曲がってナカを押したんだな。畜生、前世の記憶でわかっちまったぜ。使う指は中指と薬指派ですよね。


「不安なら見えばいいだろう」


 王子よ、そんなことを女性に言ったら平手打ちされますよ。デリカシーがないって、ね。いや、もう、だから、さ。寝室の照明は落とすのがマストなんだよな。だがしかし、初めてだし、手管もわかっていない現状、自己防止のために明かりは必要なんだよな。


「だめ、無理、恥ずかしい」


 俺は叫ぶように答えると、枕を力いっぱい抱きしめて、顔を覆い隠したのだった。

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