第45話

「なぁ、シオン」

「なっんです」


 声が跳ねてしまったのは行為が始まってしまったからだ。王子は本当に素直に手のひらで包み込むようにして香油を温めてくれた。そうすることによって、王子の指先にしっかりと香油がなじんだらしく、俺のケツに触れた王子の指先は何のためらいもなくいきなりやってきたのだった。


「こんな風に飲み込んでいくのだな」


 ものすごく感心しているらしいのが声の様子でわかるのだが、そんなことを解説してくれなくていい。まさに恥ずか死ぬという心境な俺のことを王子はどう思っているのだろうか?


「指一本では何とも言えないのだが、第一関節だけでは意味がないような気がする」

「何言って、くれちゃってんですかっ」


 王子が熱心に指先を動かしてくれるから、先ほどから俺は体が小刻みに震えているのだ。


「しかしだな、シオン」


 ここにきてずいぶんと俺の名前を呼ぶようになってきたものだ。まあ、俺が強請ったからではあるのだろうけれど。


「そこ、筋肉なんですよ。普段閉じるために使われてるんです。ほぐさなくちゃダメに決まっているでしょ」


 俺がそう訴えると、王子は納得したのか、指の動きをゆっくりと円を描くように変えてきた。


「なるほど、確かに硬いな」


 筋肉という説明を理解したのか、ふちをなぞる様にゆっくりと優しい動きになった。


「ふむ、なるほど。ここをほぐせばいいのだな」


 何か納得したようなことを呟いて、指の動きを少し早めてきた。


「ん、んぁ」


 王子の指からの刺激がはっきりとしたものになり、俺も思わず声が出てしまった。


「なるほど、このあたりから感覚があるのだな」


何か納得したような声を出し、王子の指が抜かれた。


「終わりですか?」


 俺がそう聞いたとたん、視界が急速に変化した。真っ白なシーツから、天蓋になり、見目麗しい王子の顔がドアップでやってきた。


「こうしなければ、面白くないだろう」

「へ?」

「腰の下に枕を入れるのだったな。……そうか、それでこんなに用意されているのか」


 王子は一人で納得したらしく、俺の腰を持ち上げると、素早く枕を差し込んできた。少しひんやりとした枕の肌触りに驚いていると、王子が覗き込むように俺を見てきた。


「この方がいいだろう?」

「え?この方、って」


 俺は仰向けで腰を上げ王子と向き合っている。前世の記憶で言うならば、正常位といったところだろう。


「ふむ、足が邪魔だな」


 そんなことを言って俺の片足を自分の肩にかけてしまった。こ、この体勢は完璧なる御開帳じゃないか。


「ひゃあああああ」


 俺は今度こそ恥ずか死ぬ状態だ。慌てて手近にあった枕を掴んで顔を隠した。いや、まあ、頭隠して尻隠さずではあるけれど、こんな明るい部屋で、股おっぴろげてケツの穴まで晒してしまうなんて、どう考えても恥ずかしすぎるだろう。


「シオン、顔を隠すな」


 王子の手が枕に伸びてきたのが気配で分かったけれど、だからと言って「はいわかりました」とはならないのである。


「は、恥ずかしい。恥ずかしいに決まってるでしょ」

 

俺が枕を離すまい。と指先に力を込めたことが分かったのか、王子は結構あっさりとあきらめてくれた。が、枕の端を少しつまんで、俺の顔を覗き込むような仕草をした。


「それでも反応はわかるからな」


 そんなことを耳元で囁いてくれたのだ。

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