第44話
「も、無理ですぅ」
俺はピンチに陥っていた。
元からSッ気のある王子である。アランが置いていった道具を王子は早速使い、俺は恐ろしいほどの腹痛に耐えていた。
「まだ耐えられるであろう?お前は薬への耐性も高かったと聞いているぞ」
口の端をほんの少し上げ、そんなことを言う王子の顔を見て俺はその報告をしたやつを呪うしかなかった。なにせ、誰だかわかっているからな。
「マジで無理、無理だからぁ」
俺は王子の手を振り払ってトイレに駆け込んだ。
ケツの穴がいてぇ。
もちろん腹も痛いのだが、とにかくケツが痛い。限界まで耐えたからだろう。筋肉痛に似た症状が出ているのだ。俺のケツは。いや、きっと筋肉痛だな。俺はプルプルと生まれたての小鹿のように、足を震わせながら王子の待つベッドに戻った。
王子は俺を抱きしめると、そのまま俺の体をベッドに横たわらせた。うう、腹筋も痛いよな。俺が涙根で王子を見上げると、王子は満足そうに微笑んだ。
「アランは三回はした方がいいと言っていたが、どうする?あと一回してみるか?」
楽しそうにポンプを手に聞いてきた。嬉しそうに聞いてくんじゃねえよ。畜生、こんな裏話があるなんて聞いてねえぞ。ゲームの世界なんだから、綺麗ごとだけ並べておけばいいのに、なんでこんな設定だけリアルにしたんだよ。BL展開なら耽美にしておきゃいいんじゃねえのかよ。腐女子がよろこぶのか?この展開。
俺は力なく首を横に振った。
無理だ、あと一回なんて耐えられない。いや、王子の体を思えば、あと一回して確実に綺麗にするべきなんだろうけど、今夜最後までするんじゃないんだから、もうよくね?もういいよね?ね?っていうのが俺の本音である。
「では、この香油を試してみるか」
王子が一本の香油の瓶を手に取った。確か好みでいろいろ調合できるって言っていたよな。調香師とかいうやつが好きな香りと粘度にしてくれるんだっけ?そんなところはお貴族様セレブ仕様なんだな。
「これが一番粘度の高い初心者用だな」
そう言って王子が選んだ瓶の中身は少し色がついている感じがした。
「では、先ほどと同じ態勢をとれ」
王子に言われ俺はのろのろと先ほどと同じ態勢、つまり顔をシーツにつけケツを上に上げた態勢をとった。まさにケツを王子に差し出している状態だ。
「ひぅ」
俺が思わず変な声を出したからか、王子が声を出さずに笑っていた。そもそもの原因を作ったのは王子である。王子は、俺のケツを撫でたのだ。こういっちゃあなんだが、男の、しかも兵士なんぞをやっていた田舎出身の俺である。ケツが綺麗なわけがない。疲れれば平気で地べたに座っていたのだ、きっと皮膚は固いはずである。それなのに、王子はゆっくりと撫で、ついでにキスまでしたのである。
つまり、俺はキスをされた瞬間に思わず変な声を出してしまったのである。
「もう少し色気のある声をだせないのか?」
「むりですっ」
俺は考える間もなく即答した。どこの世界にケツを触られていきなり色っぽい声が出せる男がいるんだよ。
「ぎゃっ」
ケツに何かが垂らされた。きっと香油なんだろうけど、アランがちゃんと注意しないからだ。畜生。
「王子、王子、リーっ」
「なんだ?」
「なんだじゃない。いきなり垂らすな。冷たいじゃないか。玉が縮んだぞ」
俺ははっきりきっぱり抗議した。
「……た、ま」
王子が呆然としているのが気配で分かったので、俺は王子に顔だけを向けた。
「指先じゃわかんないだろうけどな。ケツにいきなり液体垂らされたら冷たいだろうが。色っぽい声を出せって言うんなら、まずはリーが配慮するべきでしょ」
「そ、そうだったのか。では、どうすれば」
「瓶の中身を自分の手のひらにだして、両方の手のひらで包み込むようにして自分の体温をなじませるの」
「そうか、わかった」
こんな時王子が素直でよかったと思うよな。いや、俺のピンチには変わりはないんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます