第43話
そんなわけで、俺は絶賛絶体絶命のピンチに陥っていた。
物理的と、精神的にである。
「以前話したと思うが、俺は閨指導を受けたことがない」
「はい」
昼間王妃様に脅された?俺としては、まだ精神的に立ち直っていなかったのだが、夜になってまたもや攻撃を食らうとは思っていなかったのだ。なぜなら、王子が誰かを連れて俺の寝室にやってきたのである。侍従たちは理解した顔でいなくなってしまった。で、俺は状況をようやく察して内心ガクブルとなっている。
「今日連れてきたのは、閨指導をしてもらう城下にある娼館の者だ」
王子がそう言うと、王子の横で控えていた男が頭を下げた。こんなことは言いたくはないのだが、びっくりするほどの美人なのだ。王子が来たことで、侍従が寝室の明かりを強くしたことで、相手の体形がよくわかったからこそ、男だとわかったぐらいに美人だった。
淡い金髪に透き通るような白い肌、綺麗な柳眉毛に大きな目は淡い青、まつ毛は長く鼻筋はスッとしていて、鼻の穴は小さめだ。唇は上は薄く舌はややぽってりとして赤く艶があった。首が細くて鎖骨がよくわかる。細い体はほぼ凹凸がなかった。しいて言えば腰が細いかもしれない。
「アランと申します」
声はそこまで低くなく、耳馴染みが良かった。
「っと、シオン、です」
慌てて挨拶をしたら、なぜか王子に睨まれた。
「シオン、お前も経験はないだろう?」
王子が唐突に言い出すから、最初は何のことだかわからなかったが、アランが何かをテーブルの上に並べたのを見て、俺は察した。つまり、アレだ。俺と王子が致すための閨指導だ。
「あ、当たり前です」
一応この体は童貞だ。前世は妻子持ちだったけどな。
「ならばいい。あったというのなら、そのものを粛清しなくてはならないからな」
王子が堂々と不穏なことを口にしてくれた。怖くて聞きたくはなかったのだが、王族と婚姻するものは身の潔白が求められるらしい。まあ、要するに子種を仕込んだまま嫁がれないように、一年間は後宮で妃教育を受けるんだそうだ。つまり、いま俺がいるところね。
「女性相手とやり方が違うことはご存じですね?」
アランがテーブルに置いた道具を持ちながら聞いてきたので、俺は素直に頷いた。
「知っている女だけが持っている気味の悪い器官のことであろう」
王子が忌々し気に吐き捨てるように言うものだから、アランの顔が一瞬ひきつった。だが、すぐに温和そうな笑顔を浮かべ、説明に入る。
「男には受け入れるべき穴は一つしかございません。それは尻穴になるのですが、本来はいれる場所ではないため、受け入れるために準備が必要となります」
そう言ったアランが持つ道具は、木でできたポンプのようなものだった。いや、きっとポンプだろう。前世の知識を持つ俺がそう囁いている。なにしろここは恋愛趣味レーションゲームの世界なのだ。残念ながら魔法なんてものは存在しないのだ。それはつまり、出口を入り口にするために綺麗にする方法はただ一つ。ということだ。下剤なんてものは存在しないだろうから、物理的にやるやつだ。
多分だけど、絶対だけど俺がされるんだよな。
「で、それは何をするものなのだ?」
王子が俺の隣で胡散臭いものを見る目をして聞いた。俺はもうわかっているので死んだ目をするしかない。
「出口を入り口に変えるための洗浄です」
アランがきっぱりと言い切ったことで、俺のナカの何かが死んだ。
「どうやって使う?」
「はい。この中に温かめのお湯を入れまして、尻穴にゆっくりと注ぎます。入れられた者が限界だと感じてからさらに我慢させ、中味を出します。初めての時は三回は繰り返した方がよろしいでしょう」
それを聞いて王子は深く頷いているが、俺からしたらたまったものではない。限界に達してからさらに我慢だと?しかも三回?考えただけで絶望的だ。
「洗浄が終わりましたら、次はこちらの香油を使ってほぐしていきます」
アランはそう言って香油の入った瓶を王子に手渡した。王子はしげしげと瓶を眺め、蓋を開けて匂いを嗅いだ。
「だぁっぁあああ、何勝手に空けてんだよ。匂いを嗅ぐなぁ、俺が先でしょどう考えても」
慌てて王子から瓶を奪い取る。意外にもしっかりとした造りの瓶で驚いた。匂いも何か花の香りがして高級感がある。
「何を言うんだシオン。お前に使うものなのだから、俺が確認するに決まっているだろう」
王子はそう言うと、俺が握る瓶を奪い返し、手のひらに少し垂らした。
「百合の香りか。なかなかいいな」
「はい、香油はお好みに合わせてブレンドができます。匂いとこの粘り気ですね」
「ほう、粘り気……ふむ」
王子は指に点け粘り気というものを確認しているようだった。
「刺激の少ないよう、匂いは天然の香料を使用しています。練り香を調合している調香師が行っています。いくつかご用意いたしましたので、お気に召す調合をお申し付けください」
「わかった」
話を聞きながら、王子は指先で香油をすり合わせていた。多分粘度の違いを確認しているだろう。
「ほぐすときの注意点なのですが」
「なんだ?」
「はい。ゆっくりとほぐせばいくらでも広がるのですが、切れやすい場所になりますので、焦らずじっくりゆっくりしてください。最初は指の第一関節程度でじっくりとほぐされるのがよろしいでしょう。緊張されますと無駄な力が入り痛い思いをすることがございます。そんなときはお酒を楽しむのもよろしいかと思います」
「なるほど」
「それから体勢ですが、最初はうつぶせで尻だけを上げるのがよろしいかと思います。仰向けでされるのであれば、腰の下に枕を入れるとよろしいですね」
「そうか、では枕をたくさん用意させなくてはいけないな」
王子、そんなことを決め顔で言われても困るんですけど。もう完全に俺がされる側で話が進んでるよ。
「あまりにも力が入って痛がるようでしたら、前を触って気を紛らわせるのもアリです。痛みを気持ちのいいことと変換させるのです。それを繰り返すうちに、気持ちのいいことだと覚えますので、前を触る必要がなくなります」
「良い案だな、採用しよう」
いやいやいやいや、そうじゃないでしょ、王子。俺はまだ同意してないってば。
「貴殿の話はためになった。今夜は下がってくれて結構だ」
「かしこまりました。くれぐれも、焦りは禁物でございます。殿下」
アランはそう言って頭を下げると寝室からいなくなったのだった。
俺ピーンチ。
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