第41話
一体何かどうなっているのかと、散策がてらうろついてみれば全貌が明らかになった。
後宮と言うのがものすごく巨大な施設だったのだ。中国の皇帝の有する後宮がバカでかくでバカ広いっていうのは国土が広いから、なんて考えていたのだが、どうやらそれはこの恋愛シュミレーションゲームの世界でも通じるものだったらしい。
後宮と呼ばれる敷地と、その向こうに国王が政務を行うお城があって、その間にお堀とでっかい門があったのだ。後宮を取り囲むように堀があるのは日本のお城のようでなかなかすごかった。有事の際はお堀に船を浮かべ後宮に暮らすものたちが逃げられる仕組みになっているそうだ。なんかRPGの設定っぽくてワクワクしてしまったのは仕方がない。だって、俺ゲームライターだったんだからさ。
「許可が下りないとこの外には出られないわよ」
デリータにあっさりと言われてしまい、内心なんでお前は毎日ふらふらしてたんだよ。と思ったら、デリータには通行許可証みたいなもんがあるらしい。要するに指輪だ。王家の紋が刻まれているやつ。国王や王子の妻となったものは王族でないから持っていないんだとさ。これも初耳だよ。
「俺、男なのに」
ちょっと文句の一つも言ってみれば、デリータが嬉しそうに笑った。
「仕方がないじゃない。あんたはお兄様のモノになったんだから」
「んなこと言われてもなぁ」
「心配しないで、そこのところは今お兄様に掛け合っているから」
「そこのところ、といいますと?」
それ、すっごく大事なところよ。だって俺ってば、絶賛モノ扱いじゃんよ。
「お兄様は王太子で、次期国王となる人でしょ?当然婚姻してその隣に王妃が必要になるわけよ。あんたがあんたがここにいることはすでにサロンの令嬢たちの間では話題になってんの」
「あらら」
「当たり前でしょ?お兄様があんたのことを抱きかかえて後宮に突進して行ったんだから。みんなびっくりよ。周りを近衛たちに守らせちゃってさ、ただでさえ粛清の後で城内は人が多かったって言うのに、事務処理もしないで当事者のお兄様が後宮に籠ったんですもの、ねぇ」
「ねぇ、って」
にんまりと嬉しそうに笑っているデリータは、ゲームのスチル絵のごとく悪役っぽい微笑みを浮かべていた。このスチルがでると、もれなく破滅ルート確定なんだがな。
「前にも言ったと思うけど、お兄様は女がダメなの。精神的な意味でね。いまだに治っていないわ」
「知ってる」
「そりゃ治るわけないわよね。一歩外を歩けば、侍女になったどこぞの貴族令嬢がお世話をしようと寄ってきて、社交だなんだと相手をさせられて、足を出したらはしたないって言う割には、胸を押し付けるのははしたなくないってどういうことなのかしらね?」
「背中どころか尻の割れ目が見えそうなドレスも着てるけどな」
夜会の度に何人も見かけて、そのたびに俺は視線をそらしていた。だって、あんな大胆なイブニングドレス海外のセレブが着ている映像しか見たことがなかったからだ。体のラインははっきり見えるし、おっぱいなんか半分ぐらい見えてるし、背中の大胆なカットは正直鼻血ものだった。
「まさにそれ、お兄様の傷をどんどん深く大きくしていくのよね。でも、お兄様の女嫌いの理由がわかっていないから、自分こそはお兄様の心の傷を癒してあげられる。って迫っていくから困るのよね」
「理由を知ったらそれこそ大胆に迫るだろうな」
理由をしったらそれこそ「わたくしが女性の素晴らしさを教えて差し上げますわ」なんて言ってきそうだもんな。
「お母さまはご存じでいらっしゃるからこそ、お兄様に無理強いは絶対にしたくないわけよ」
「息子の心の傷えぐりたくないもんな」
「ただ、お父様は……王族の義務をって、思ってんのよね。それに、男の本能でいけんだろ。って思ってるわ、絶対」
デリータよ、お前はお姫様ではなかったのかい?世の男の夢とロマンを粉砕するようなことを平気で口にするよな。まぁ、本気で無垢なのも困るんだけどさ。男としては、その辺のさじ加減が欲しいところなんですよねぇ。
「で、つまるところどうすんの?」
俺も、デリータに対する扱いがぞんざいだったわ。
「お母さまは絶対的にお兄様の味方だから、そこをうまく利用するつもりよ」
デリータは、そう言って器用に片目をつぶって見せたのだった。
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