第39話


 風呂に入った後に、長い階段を上ってベッドに行くとかかなりだるい。

 俺は本当に寝るだけだからいいけどね。


「よく眠れるぞ」


 王子からホットワインっぽいのを渡された。

 風呂に入っている間に用意されたようで、グラスはしっかりと温かかった。

 卵酒よりは飲みやすいかな?って感じのハーブが入った赤ワインはごくごく飲むのではなく、ゆっくりと飲むものらしい。


「んで、リーは俺をどうやって守ってくれるのかな?」


 監禁に至った経緯は理解しよう。だがしかし、これで俺を守ったことになるの?というのが疑問なんだ。


「誰にも傷つけさせない」


 王子の手の甲が俺の頬を撫でた。

 どっちかってーと、王子の方が未だに傷ついているんだよね?


「名前」

「うん?」

「名前、呼ばないよね」


 自分で名前をつけたくせに、そういや呼ばれたことがない。今更だけど確認しておこう。俺の名前を覚えているのか。


「そう、だったか?」

「そうだよ」


 俺は年下らしく少し拗ねた風を装った。


「シオン」


 あの日以来初めて呼ばれた。

 名前をつけておきながら呼ばないとか、どんだけ放置プレイだったんだろう?


「もう一度」


 俺は返事の代わりに強請った。

 名前を呼ばれないのは寂しい。

 俺から奪っておきながら、与えておいて放置したのは王子だ。だから、今更だけど呼んで欲しい。


「シオン」


 返事の代わりに王子の側に寄ってみた。

 名前を呼ばれて嬉しいんだよ。ってそう言うつもりだ。

 王子の目元が少し緩んで、俺の髪をくしゃりとした。


「そう言えば、お前から名を奪ったんだったな」


 忘れていたのか、王子は今更のような態度をとった。


「日に当たらないと病気になる」


 俺は懸念していることを伝えることにした。田舎生まれの俺は、こんな所に閉じ込められたら病む。


「ああ、そうか」


 王子は理解したらしく、寝巻き姿の俺を連れて、食堂の先の扉を開けて、通路を進む。低い階段を上がると外に出た。


「え?」


 風があって、広い草地があった。


「この建物専用の庭だ」


 月明かりでも見えるほど高い柵に囲われた、草地の庭園。ガゼボがあって、そこで休むこともできるようだ。

 隣に立つ王子が結構などや顔で、俺は言葉を失った。

 監禁、ガチなやつだった。

 ガゼボにある長椅子は、幅もあってクッションも複数用意されていた。そこに座ると王子が俺の髪を撫でてきた。

 ああ、やらかした。

 攻略ゲームだったら、王族ハーレムエンドだな。

 スチル絵が出てきて、スタッフロールが流れるやつだ。


「ここにいれば誰もお前を傷つけはしない」


 こめかみにキスを落としながら王子が囁く。

 抵抗するつもりもないので、俺は大人しくしていた。ホットワインを飲んだから、体は温かい。

 だが、初めてがいきなり外とかハードル高すぎるよな?部屋に戻るよな?

 腰に回された手が脇腹からゆっくりと上がってくる感触に、色んな意味でぞわぁっとしてしまい、軽く震えたら、耳元で王子の低い笑い声が聞こえた。

 それを聞いてまた身震いすると、腰を掴まれて立たされた。


「体が冷えるな」


 王子に、腰を掴まれたまままた部屋に戻った。通路の幅が狭いのは、剣を振り回せないようにかなぁ。などどとつい、護衛関係を考えてしまう。

 天蓋付きのベッドに入ると、なぜか王子と向かい合って抱き合う形で寝る羽目になった。せめて背後からが良かったのだが、機嫌を損ねないように素直に従った。


「暖かい」


 誰かの体温を感じて寝るのは何年ぶりだろうか?前世では家族みんなで寝ていたんだよな。

 俺はじんわりと暖かくなるのに身を任せ、そのまま眠りについた。

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