第25話
実際問題、王子の親衛隊をしている俺では、そうそうにご令嬢とは遭遇できないものである。
そもそも、街中をフラフラしたところで、ご令嬢は馬車で移動するものだ。うっかり、ばったり遭遇なんぞしない。
王子の婚約者候補ほ未だに決まらず、夜会を開いたところで王子は誰とも踊らないのだ。
「これは随分と困ったことになってるな」
王子を攻略したかったわけでは無いのだが、これでは王子ルート1本道を進んでいることになる。
そもそもデリータは攻略対象では無い。
俺は攻略対象を、広めるために図書館に向かった。当然、知識を広めるためなのだが、その知識は実際のものではなく、ゲームの攻略に関することで、
「どれが、そうなんだ?」
図書館の、司書が攻略対象だったはずで、そいつを探しに来たのだ。
「眼鏡をかけたイケメン」
非常にざっくりとした情報ではあるが、乙女ゲームの攻略対象なのだから、当然イケメンである。
そして貴重なメガネ枠。
俺はゆっくりと図書館の中を見渡した。
作業をしている司書に、それをサポートする侍女がいる。ぶっちゃけここの侍女は力がありそうだ。
おもたそうな本をまとめて運んでいる。いや、よく考えたら、貴族の屋敷にいるメイドさんたちも力持ちだよな。
そんなことを考えながら見ていると、お目当ての人物が現れた。お使いできたらしい侍女に、 数冊の本を渡している。
貸出帳に記入をして、侍女にサインを促しているのがわかった。
あの手の係をしているとなると、それこそ侍女たちからしたら、図書館の王子様だろう。
貴重なメガネ枠として、神経質そうな感じがする金属の眼鏡が、顔を動かす度に光る。
俺はそいつの顔を眺めながらゆっくりと図書館の中を歩いた。
特別閲覧室が、使われている様子は無いので、王族の誰もここに来ていないのはわかった。それなのに、親衛隊の俺がフラフラしていれば一発でサボりと知れるだろう。
案の定、司書たちが俺をチラチラ見ている。侍女たちも普段見慣れない軍服に興味があるようで、はしたない行為と分かりつつも俺をチラ見している。
さて、お目当ての攻略対象メガネ枠は分かったけれど……
「いた」
俺は思わず舌なめずりをしてしまった。それをうっかり正面から見てしまった侍女が顔を赤くしている。見慣れないもんを、見せてしまってなんだかゴメンって気持ちにはなったが、俺は図書館にいるもう一人の攻略対象目指して真っ直ぐに進んだ。
艶やかな黒髪をハーフアップにして、ドレスとおなじ落ち着いた茶色のリボンを飾っている。ヒールではなく珍しい編み上げブーツを履いている令嬢。
色気などはなく、ただの文学少女。と言っても差支えは無い彼女は、いわゆる眼鏡を外すと可愛い。ってお約束のキャラだった。
俺は背後から、彼女が取ろうとしている本を先回りして本棚から抜き取った。
恋愛小説のコーナーに、背の高い軍服がいることに驚いて、本棚に激突して、数冊の本を落とす。と言う在り来りのシュチュエーションなのだが、俺はあえてそれを回避してみた。
すなわち、驚い身を引く彼女を更に先回りして抱きとめてみたのだ。
「ーーーーっ」
あまりのことに大きく目を見開く彼女が可愛い。
「お探しの本はこちらで?」
腰にまわした手をあくまでも外さないで、彼女の前に今しがた本棚から抜き去った本をチラつかせる。
「……………」
無言で首を縦に振る様子は、ちょっとした人形のようで面白い。
しかし、男のメガネ枠はそのままで十分にかっこよく描かれるのに、なぜに女子のメガネ枠は、外すと可愛いにされがちなのだろうか?
しかし、貴族の令嬢なのに、この体制をなんとも思わないのだろうか?
俺がニコニコしていると、彼女は本に手を伸ばし、
「あ、ありがとうございます」
そう言って、俺の腕の中からするりと逃げてしまった。
彼女は、そのまま受付でメガネ枠の攻略対象に手続きをして図書館を出ていってしまった。
ゲームの設定と同じで、一人で図書館に来ていたようだ。貴族の令嬢なのに。
俺はメガネ枠の攻略対象が書類を片付ける前に近づき、しっかりと彼女の名前を確認した。
セシル・リヒテン伯爵令嬢
本を買い漁るわけにはいかないため、図書館で本を借りまくる令嬢だ。
「可愛いな」
俺がそう呟くと、メガネ枠の攻略対象が俺を睨みつけた。
もしかして、こいつ彼女をねらっているのか?お前にコレットを押し付けようとしている俺の計画を潰すつもりなのか?
目が合った途端、俺は口の端をあげて笑みを作った。そうすると、直ぐに目線を逸らし、書類をもって裏に隠れてしまった。
メガネ枠の攻略対象を目で追いかけていると、侍女と目が合ったので、軽く手を振って図書館を後にした。
図書館の侍女可愛いな。と思う。無理して攻略対象を、落とす必要ないんじゃないかな?なんて考えてしまっても、それは俺のせいじゃない。
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