第24話
中庭で、靴を脱いで足の裏を確認している同僚を見て、俺は確信した。
ゲームと違う。
俺が知っているのは、アンリエッタとダンスをして足にマメを作った王子が、マメがつぶれて痛い。って、八つ当たりしてくるやつだ。
「なにしてんすか?」
俺は、見て見ぬふりが出来ず、同僚に声をかける。
「昨夜王子の指示でダンスしただろ?」
「ええ」
「俺さぁ、よりにもよって、新しい靴を支給されたばかりでさぁ」
そう話す同僚の、足には立派な水膨れが出来ていた。ひとつが潰れて赤くなっている。
「痛そうだなぁ」
ちょっと軽く言うと、
「痛いんだよ」
と、叩かれた。親衛隊って、騎士なのに、こんな情けなくていいのだろうか?
「ちょっと見せて」
俺は躊躇なく同僚の、足をとった。あと二つ、立派な水膨れがある。
「痛い?」
軽く押してみると、明らかに痛そうな顔した。こんなんで王子を守れるのかね?
「じゃあ、荒療治」
俺はなんの躊躇いもなく同僚の足を持ち上げると、そのまま水脹れの箇所に歯を当てた。
「ーーーっ、う」
同僚の口から戸惑いと焦りの入り交じった謎な声が漏れた。
「んっ」
俺の口は同僚の足で塞がれているから、喋ることは出来ない。そのまま甘噛みでは無いけれど、二箇所目にも歯を当ててみる。
「ーーーーっー」
若干、同僚の足が震えているのが分かった。上目遣いで顔を見ると、歯を食いしばっているのか、口が真一文字になっていた。
俺は、軽くひと舐めすると、反対の足を、持ち上げる。こちらも水脹れがある。
躊躇なくこちらの足にも歯を当てると、同僚の体が小刻みに震えた。
「お、おまっ…」
声が震えている気がするが、まぁ我慢して貰うしかない。そりゃあ、足のえ裏を舐められたらくすぐったいだろう。
だがしかし、俺はできるだけ痛くないようにするために優しく歯を立ててやった。痛がっている相手に痛いことをするのは忍びない。
「これでよし」
俺は同僚の、足に軟膏を塗り、ガーゼを当ててやった。満足して、同僚の顔を見ると、なんだか赤い。
「お、お待っ、お前なっ」
同僚はしどろもどろになって、口をパクパクさせている。痛かったのだろうか?
「ん?痛かったか?」
俺は同僚の顔を見て聞いてみた。
「あ、足、足だぞ!」
口を開く回数と、喋る言葉の数が全くあっていない。
「足、まだ痛い?」
「ち、違う」
「………?」
じゃあ、なんなんだろう?
くすぐったかったことに対する抗議なのだろうか?
「お前、足だぞ、足!」
「それが何か?」
「人の足を舐めるなんてっ」
「ちょっとしか、舐めてない」
「そういう問題じゃねー」
同僚はそういうと、俺の頭をわしゃわしゃして去っていった。これはお礼のつもりなのだろうか?
「あんた、拙僧ないわね」
背後から、冷たい声がした。
振り返るとそこには何故かコレットが立っていた。
「なんで、いるんだ?」
「兵舎からの荷物を運んでいたの」
言われてみれば、コレットに不釣り合いなごつい荷物があった。
「どういう意味だよ?」
俺はコレットの言った意味が分からず、聞き返した。
「そのままよ。男も女も見境なく誑し込むのね」
コレットは、いーって顔をして立ち去ってしまった。
どうやら、そこそこに嫌われてしまったようだ。
「これで、破滅しないで済むのか?」
俺の目標、破滅しないで生き抜く。は何とかなりそうだ。が、俺はコレットに言われたことを思い出す。
ちょっとまて。
俺は、すっかり忘れていた。
コレットからの破滅エンドを恐れるあまり、全く、女の子を攻略していなかった。
しかも、最推しの令嬢と、まったくフラグを立ててもいない。
今からでも遅くない。
コレットが、なんだかゲームと違うけれども、俺は今から最推しの令嬢との間にフラグを立てるんだ!
そうと決まれば、サロンに来ているご令嬢を見回るしかない。
俺は自主的に見回りに出るのであった。
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