第23話
「断れるんだろう?」
「うん」
「貴族の、ご令嬢を後妻にはしずらいからなぁ」
俺がそう言うと、コレットは怪訝そうな顔をした。
「王子の婚約者が、決まってないのに、引退する公爵が後妻に若い娘を娶れないだろ」
おどけて言うと、コレットはとりあえず納得した顔をする。
「だからって、領民からならいいわけ?」
「世間体を気にして引退してから、ってするんだろーな」
「それ、一番やなやつ」
「引退して落ち着いた頃って、あと継いだ息子が婚約するか結婚するか。って、ことだろうから、息子の嫁と、後妻の歳が同じとかだったら笑えないね」
「そーなりたくないの!」
「知ってる」
世間的に考えたら、引退したとはいえ公爵領を治めるには変わりない。単なる領主の娘のコレットからしたら大出世だ。父親ほどの相手だけど。割り切れれば奥様と呼ばれ、贅沢後できて、社交界には出られないけれど子どもを産む必要も無い。
跡継ぎの息子と何とか出来れば、随分とよさそうなんだがな?
「何が嫌なんだよ?」
「こ、…恋を、恋をしないままなのは、いや…」
スカートをぎゅっと握りしめているあたり、ゲームのコレットとは随分違う。
「恋、したいんだ」
「っ、当たり前でしょ」
泣きそうで、それでいて怒っているようで、顔を真っ赤にしたコレットはそれなりに可愛かった。
「こんなに可愛いのに、兵舎の連中はどこを見ているんだろうね?」
今にも溢れんばかりのコレットの瞳を見つめながら、親指でそっとなぞる。
「可愛い手がこんなに荒れて、可哀想に」
反対の手でコレットの手を優しく撫でる。
ピクリと、反応したコレットだが、俺の手が頬から離れていないので目を見開いたまま顔の位置が動かせないでいた。
「な、なに?」
「ときめきぐらいなら」
コレットの手を撫でて、そのまま手首を摩り、ゆっくりと腕を登る。肘の当たりを軽く撫でて二の腕まで俺の手が伸びた時、ようやくコレットが飛び退いた。
「なっ、ななな、なに?」
せっかく甘い空気を作ろうとしていたのに、逃げられてしまった。
「あと少しだったのに」
俺が残念そうに言うと、コレットの、顔がますます赤くなったのが、分かった。
「な、ななななな、何、言ってんのよ」
バタバタとコレットの手が騒がしく動く。
「少し、練習相手になろうかと思ったんだが」
「い、い、いいいいらないわよ」
コレットは、立ち上がって俺から距離をおく。
「無骨な男が嫌なら、図書館にでも行ってみれば?嫡男は居ないけど、貴族の令息たちは割といるよ」
「そ、そんなこと聞いてない」
「武官より文官のがいいんじゃない?田舎には居ないタイプが、揃ってるよ」
俺が笑顔でアドバイスすると、コレットは胸の辺りをギューってしながら俺を睨みつけてきた。
「あ、あんたみたいなのじゃなければっ!……だ、で、……い」
なんだか、よく聞き取れない。
口をパクパクはさせているんだけどな?
「っ、も、もういい」
コレットはそう言うとあっという間にいなくなってしまった。
「もしかして、俺振られた?」
ふと、考えてみるが、パッと見振られたとしか思えない。
「ゲームの、コレットと随分違うんだが」
俺が攻略してきたコレットと随分違う。
もしかして、何かの隠しルートが開いてしまったのだろうか?
「アリトス公爵の息子が隠しキャラ、とか?」
もしかして、俺が何か、余計なことをしすぎたのだろうか?
俺としては死にたくないだけなんだけとな。
自分としては立てたつもりのフラグが、実は立っていないとか?
色々考えたいけれど、慣れないダンスで疲れているため、俺は寝ることにした。
とにかく、破滅エンドに、巻き込まれないようになればいいさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます