第22話

「少し、いい?」


 まったく媚のない言い方で、コレットが俺の前にやってきた。

 普段とは大違いの、素のコレットだ。


「どんなご要件で?」

「意地悪しないで」


 小動物を思わせるクリクリとした目で俺をみるけれど、そこには媚びがなく、本当に要件あるのだと分かった。


「何かあったか?」


 夜会がお開きとなったので、俺の仕事は終わっている。招かれた貴族たちが順に馬車に乗って帰っていくのか、馬の蹄の音と、車輪が石畳とあたる音が絶え間なく聞こえてくる。

 主役の王子はとっくに、自室に戻っているだろうに、未だに会場だったそこは煌々と明るかった。


「なんだか、疲れちゃったの」


 弱気なコレットが可愛く見えた。


「休みがないのか?」

「違うわよ」


 分かっていて、あえて違うことを言ったという自覚はある。


「なにに焦ってるんだ?」


 俺はそう言って、コレットを自分の隣に引き寄せた。ベンチではないが、花壇の縁に腰掛けていたので、そこに並んで座る形になる。

 俺に腰を触られた事で、コレットが若干焦ったのが分かった。

 これはもしや?


「男が捕まらない?」


 笑いながら言うと、コレットが赤くなったのが分かる。


「っ、ばっ…な、何言ってんのよ」


 多分当たりだ。

 さっきの反応は、慣れてなかった。

 これだけの男所帯に放り込まれたのに、コレットは男慣れしていない。

 おかしい、ゲームのコレットは侍女という立場を利用して、貴族の令息たちと恋愛をゲームのように楽しんでいたはずなのに。


「実家から結婚しろって迫られてる?」


 確か、ゲームのコレットは実家から意に染まない結婚を提示されていた。口減らしと金銭のいいとこ取りを狙った結婚だ。

 それが嫌で男漁りみたいな事をしているはずなんだが……


「っ、そんなんじゃないわよ」

「じゃあ、どんなんだよ?」

「それは…」


 俺の横でコレットがなにやらもじもじと足を動かしている。その、子どもっぽいしぐさに俺のコレットに対する警戒心が少し溶ける。


「仕送りを頼まれてるわけじゃないんだろう?」


 俺は頼まれてるから送ってるけど。男だし。


「うん」

「じゃあ、やっぱり結婚だ」


 繰り返すと、コレットはしてを向いたままになった。

 俺は知っている。

 親が提示してきた結婚は、俺たちの田舎を治める貴族。公爵様の後妻に入るというものだ。


「………知ってる、の?」


 コレットが若干泣きそうな顔をしているが、ここはまだ我慢しよう。


「小耳に挟んだのは、アリトス公爵がそろそろ世代交代を考えている。ってことかな」


 それを聞いて、コレットの肩がピクリと動いた。どうやら当たりのようだ。


「まだ、息子は婚約者もいないけど、あとを継げば婚約者も、決まるんじゃないか?って噂されてるけどね」


 コレットが、俺を見つめる。


「やっぱりそうなんだ」


 親衛隊である俺に言われて、コレットの顔色は失われていく。噂話と信じていなかったのだろう。


「凶作で税がままならない状態の領地を治めてくれるのはありがたいけど、そんなタイミングで後妻取られてもなぁ」


 俺が本音を言えば、コレットはますます泣きそうな顔になった

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