第19話
「じゃあ、帰りますよ」
俺は王子の腕を掴んだままだったので、そのまま軽く引いてみた。
案の定、油断していた王子はそのまま俺の胸の中にすんなり入ってきた。
「女の子だったら、このまま、キスするところです」
両腕でしっかりとホールドした王子は、さすがに女の子よりデカいし、硬い。
「帰りたくない。とか、言ってくれたら夜遊びしますけど?」
俺がそう言って王子を見つめると、王子としっかり目があった。話をする時は相手の目を見る。いつもの癖で、王子はそうしただけだろう。
川沿い、街の灯り、抱き合って見つめ合う。
シチュエーションとしてはバッチリなんだが?
「帰るぞ」
憮然とした顔でそう告げられた。
しかも、顔面に王子の手のひらがやってきた。
「ダメですかぁ」
俺はそう言いつつ、王子の手首を掴んだ。そうして、掴んだ手を軽く啄む。
「ーーっ」
慌てて引っ込めようとしているが、俺もしっかりと手首を掴んでいる。
今度はリップ音付きで啄んでやった。
盗み見るように王子の顔を確認すると、耳が赤くなっているのが分かった。
俺は満足して手首を離してやる。
手を引っ込めつつも、王子は俺を咎めなかった。
「晩餐に遅刻するといけませんので、近道をしましょう」
俺がそう言うと、王子は不思議そうに俺の指さす先を見た。
「王子でも、ハシゴぐらい登れますよね?」
「バカにするな」
その冷ややかな眼差し、本日も王子はやっぱりイケメンである。
王子が晩餐に出席し、俺の本日のお役目は終了した……わけではない。
いわゆる業務日報を、書かなくては終わらないのだ。
今日、王子を、下町に連れていき、何を見せて何が起きたか。事細かに書かなくては行けない…ってのが、脳筋騎士には苦痛らしいが、前世でゲームライターしていた俺にとっては全く苦ではない。むしろ楽しい。攻略記事を書く要領でスラスラと書き連ねる。
「相変わらず、よくかけるなぁ」
同僚が俺の日報をみて感心していた。見れば同僚の日報はまだ3分の1程度しか埋まっていない。
「こーゆーの、好きなんだよねぇ」
俺は楽しく書き上げると、日報を隊長に提出した。
もちろん、怒られるのは覚悟している。王子を危険に晒したからね。
「……お前、なぁ」
隊長が、頭を抱えた。
まぁ、内容が、ねぇ。って俺でも分かるし、確信犯だし。隠し事は良くないし。
「殿下がご満足なら、仕方がないか」
隊長は深ーいため息をついて、俺の日報に判を押した。
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