第20話
王子ルートのフラグをたてて、俺は一息ついていた。
王子ルートに乗れていれば、死ぬことは無い。
「とにかくコレットに注意しないとな」
そう呟きつつ、兵舎で忙しそうに動き回るコレットを注視する。
コレットが未だにゲームの舞台にいるので、フラグを折るか、または立てないように気をつけないといけないのだが、俺はカテゴリ的に兵士ではあるので、なかなかコレットとは縁が切れないのである。
「逆恨みされてたらマジでやばい」
一応、お前とは他人だ。宣言はしてあるけど、それのせいで余計に恨まれる確率もあるわけで…
今となっては懐かしの兵舎を眺めつつ、俺は夜勤に向かうのであった。
「夜会、ですか」
一番大変な任務がやってきた。
全攻略対象が集う王宮での夜会。
開催されるメインは、王子の結婚相手をさがす事。
だがしかし、集まるのは攻略対象だけではなく、モブに当たる他の令嬢も集まる。令嬢たちの王子争奪戦というわけだ。
「お前は、とにかくちゃんと持ち場に立つって事を忘れるなよ」
隊長は、俺を指さしてハッキリと言った。
「えー、俺だけ?」
「前回、式典に参加したご令嬢を不躾に見つめていたのはお前だけだ」
隊長がそう言うと、みながいっせいに頷いた。
そんな事言われても、本当に全身赤くて驚いたんだよ、俺は。田舎者には刺激が強すぎたんだって。
って、言い訳は通用しないよねぇ。
「わかりましたー」
俺は一本調子の返事をした。
大広間がこれでもかと飾り付けられて、煌々と明かりが灯され、それに負けない程に、貴族の令嬢たちが思い思いのドレスを身につけ集う様子は、
「明かりに群がる蛾みてぇ」
率直な感想を思わず口にして、周りをキョロキョロと見渡した。
隊長から口を酸っぱくする程に言われているのだ。余計なことをするな。と。
だがしかし、俺からしたらゲーム補正がどんな風に入るのか?っていうのがものすごい興味なわけで、ここで攻略対象の令嬢が、王子と踊るかどうかで今後の展開も変わることだろう。
「王子はどこ行った?」
同僚が何やら慌てていた。
「え?」
俺は気に間違いかと思って、そちらをむく。
「フロアに王子が、見当たらない」
おいおい、大問題だろ、それ。
「どこかの令嬢とテラスにいるとか?」
「テラスは全部確認した」
「休憩室とか」
「廊下に来てないんだよ」
本日の夜会には、独身の令息令嬢しか招待されていない。王子の、婚約者候補を探す名目での集団お見合いの体をなしているのだが、そのメインがフロアから消えた。
俺は咄嗟にフロアを見た。
真っ赤なドレスの女が見える。イシスだ。
つまり、イシスは王子ルートに入っていない。と、なると……
必死でフロアを見渡す。が、やはりいない。
「アンリエッタか」
俺は小さく独り言を呟いた。
伯爵に格上げされたばかりの家格で、アンリエッタはまだ小さく隠れるように振舞っていた。
伯爵令嬢という肩書きに、まだ慣れていないからなのだが、その怯えたような態度が庇護欲を掻き立てて…
探す必要があるのか?と一瞬考えたが、俺の立場上、王子の、安全を最優先しなくてはならない。
そんなわけで、俺は王子を探べく中庭にでた。
いるのはおそらくガゼボ。
社交慣れしていないアンリエッタが、一息つくために逃げてきたのだが、その、態度に興味を持って王子が後を追う。って展開だった。はずだ。
途中から同僚が一緒になり、ガゼボまであと少し、という所で声が聞こえてきた。
「ーーーなのか?」
「違います。ーーーーでっ」
男女が何やら話をしているようだが、どうにも女の声がややかすれているのが気になる。
確信するに、アンリエッタに王子がちょっかいを出していて、社交慣れしていないアンリエッタが怯えているようだ。
「王子の声だな」
同僚がそう言ったが、どちらもこれ以上足を進めなかった。
「雰囲気的に、盛り上がっていないようだけどな」
俺は糧をすくめて言った。
アンリエッタの声の感じからして、逃げ出したくて仕方が無い。と、感じ取れる。
とりあえず、同僚とギリギリのところで待機してみると、やっぱり相手はアンリエッタだった。
ゆったりと編み込まれた髪に、夜会用のドレスは体のラインを程よく見せて、ほっそりとした腰に王子が手を回していた。
見たことある光景だなぁ。って思いつつ、なんだかイラッとした。
そう、俺はアンリエッタ推しなんだよね。
「王子、あの令嬢に、するんですかね?」
同僚の、何気ない一言にカチンときた。
アンリエッタは控えめで可愛らしいのが売りだ。伯爵令嬢として、コレットを、諌めることはあっても、率先して意地悪はしなかった。そのせいでコレットに利用されて破滅エンドっていうのがあるんだけど。
俺はとにかくアンリエッタに幸せになってもらいたい。
そんなことを考えていたら、目の前にアンリエッタがとびだしてきた。
「ーーっ」
親衛隊のくせにぼんやりしすぎた自分を殴りたい。
一瞬みたアンリエッタの瞳には、うっすら涙が溜まっていた。
ゲームの知識のある俺は、ガゼボで何があったか知っている。それだけに、全力でため息をついた。
「もう少し上手くやってください」
王子相手に軽蔑の眼差しを向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます