第4話 タンクリフレッシュ

 作戦決行当日。

 チームの部屋のソファーで、パシェニャは朝早く目を覚ました。

 朝早く目が覚めなければ作戦どおり三人でいく、そういうつもりだった。

 しかし目が覚めてしまった。私独りでの突撃ならば、もし失敗しても、二人は『残機』となってくれるだろう。そんな考えがあった。

「パッチー、どこへ行くつもり?」

 ナタリアは目を覚ましていた。

「……ちょっとお手洗いに」

「単独行動は許さない。命令よ」

「だって、でも、でも、一人ずつ行けば三回チャンスがあるじゃない」

「三人のほうが安心できる」

 そのナタリアの言葉に、パシェニャは安堵した。

「そうね……そのとおりだわね、リーダー。命令をしてほしい。今までのように」

「わたしはパシェニャとミーシャを単なる手駒として使うかもしれないわよ?」

「それでいいわ。今日のところはね。安心……安心できる……と思う」

「ミーシャ!」

 ナタリアはもう一人に声をかけた。

 床で毛布にくるまって寝ていたミーシャの体がビクッと反応した。

「ハッ? 何よ! 敵襲?」

「起こしただけよ。でも、もし敵襲だとしたら?」

「ソファーの裏にまわって、ブートナイフをかまえる!」

「明察。そして作戦は?」

「作戦は昨日練ったとおり。今日の午後〇八〇〇時に戦車へ!」

「ノー・プロブレム!」

 と鼓舞するナタリアと、

『サー! イエス、サー!』

 応えるミーシャ、そしてパシェニャ。


 * * *


 午後までの時間、ミーシャとパシェニャは語り合った。

「うまくいくと思う? パッチー?」

 ミーシャは不安げだった。

「これだけ銃があれば安心だと思うわ」

 パシェニャは大量の銃の整備に余念がない。ミーシャも同様だ。

「でも、毎分三千発の銃があったところで、もし向こうも同じものを持ってたらどうするのよ?」

「そのときはどうするか? 決まってるわ! 先手をとるか、逃げるか。どちらでもよい」

 パシェニャはあえて無理難題を無理難題で返した。

「ふーん」

「ミーシャ、楽観主義は便利よ。あとはナタリアの命令に従うだけ」

「うーん」

「もしかして、ナタリアを疑っているとか?」

「まさか」

「この部屋が完全に監視されているんじゃあないかって、ナタリアにきいたらなんて答えられた?」

「『ありえないわ。一応すべての壁と床と天井とすべての電波をしらべたわ』とかなんとか」

「ならそれを信じればいいだけじゃない」

「ナタリアがわたしたちをサモルグに売ることがあると思わない?」

「思わない」

「なんでよ」

「あの人が本気で怒った時、どんなだったかが、答えになってる」

「『幹部の首を文字通り斬りにいくしかない』? そういえわれてみれば、ブートナイフをそういう使い方しそうね」

 ミーシャはやや安心を取り戻したようだった。

 ミーシャのためにも、パシェニャのためにも、そうしてくれそうだ、あのナタリアなら。


 しばしのち、ナタリアが作業服で現れた。

「戦車の整備は終わった。対マグナム弾装甲も完璧にした。毎分三千発のミニガンも十基装備できる。それでは、休憩をとること」


 * * *


 午後八時。三人は戦車に乗り込んだ。

 サモルグの隠された本部事務所のある片田舎の辺境へとむかうのだ。

 やがて、邸宅――百メートル四方の幹部の館――の入口までたどり着いた。


「作戦アルファ、突撃!」

 ナタリアの命令が戦車のコックピットに響いた。

 戦車はまず、作戦どおり、邸宅の乗用車を全部キャタピラで踏み潰すことにより破壊した。無人の敵の戦車も主砲で破壊した。ヘリコプターも、ヒコーキも破壊した。バイクも電動アシストつき自転車もセグウェイもブチ踏み潰して破壊した。主砲を撃ちまくり、踏み潰すだけの単純な作戦だった。

 その後、邸宅から出てきた人間のおよそ半分を毎分三千発の機銃でドバーーーーーッと薙ぎ払い、無惨な死骸に変化させた。出てきた残りの半分はひどくバラバラの死骸に変化させられた。

 邸宅は瞬時に武装態勢に入った――が、時既に遅し。邸宅から放たれたロケットローンチャーのロケットミサイルはミーシャの操作する機銃で撃ち落とし、また、想定済みだった邸宅の銃眼(注・建物の内側から外を安全に銃で狙うために、壁に開けられた穴)は、すべてパシェニャの超精度の狙撃で塞がれた。パシェニャは接着性粘液の弾丸を使ったのだ。

 そして、邸宅は戦車の主砲でほとんど真っ平らな瓦礫の山と化した。

「念のため、作戦ベータ」

 とナタリアがつぶやき、邸宅だった瓦礫を、パシェニャの操縦する戦車で、全部踏み潰した。ゴキブリ一匹すらも残さず踏み潰したことだろう。

「ガンマ」

 三人は戦車から降り、瓦礫の山の上に立った。

 三人とも重武装している。

「やってやった! やった! やった!」

 はしゃぐミーシャ。

「まだだわ」

 文字通りヘルメットの緒をしめるナタリア。

「幹部の首を斬らないとね」

 パシェニャは思い出した。


 地下室への入口は間もなく見つかった。

「地下にいる……幹部と……教官たちが。ところで」

 ナタリアの顔に影がよぎった。

「これから殺す幹部は、マクドナルドや教官の上司でもあるのよ。もちろん、マクドナルド先生や教官を殺したくはないでしょう? だけれど、わたしは多分『全員殺せキルゼムオール』と命令することになるわ。それでいい? わたしの命令に従う?」

『ノー・プロブレム!』

 団結は硬い。

 ナタリアとミーシャ、パシェニャは、ここからが本番だ、とつぶやきあった。

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