第二章 第7話 大地の竜(後編)

 ダーバ様は世界が固まっていたことなど微塵も気づかずに話を続けた。


「古来より魔術師と呼ばれる者は、その太い竜脈から自在にプラーナを吸い上げていたそうじゃ。大地を巡るプラーナはやがて地表に噴出して天へと流れて日月星辰を動かす力となり、そしてまた地に降り注ぐのじゃ。プラーナは地より天へ、天より地へと巡回しておる。その流れを意識し、己の体をプラーナを噴き上げる竜脈の一部に化すことが魔術師への第一歩じゃな」


 えっ? えっ? ……今のは何?


 ダーバ様は何も気づいた様子がない。本当に座りながら夢を見ていたのだろうか。

 前世の記憶があるせいで、時々、今のことなのか前世のことだったのか、頭の中がこんがらがることがあるしね。……うん、気の所為、気の所為。


「……なんかとっても難しそうです。僕にもそんなことが出来るんでしょうか?」


「まあ、誰にでも出来ることではないのう。この神殿の神官やラハンにも竜脈を捕らえられる者はおらん。じゃがの、そういう心掛けで修行することが大切なんじゃ」


 なるほど、目標は大きくってことですね。


 それからもクンダリーニを巡らしプラーナを操作する修練を、夕方のお勤めの時間になるまでまで続けた。プラーナの操作って特別お腹が減る気がするよ。


 お勤めの時間を知らせる風の一刻鐘が鳴ると、神官たちは一斉にその場で跪いて頭を垂れる。僕も一緒になって、グーグー鳴るお腹を抱えながら、御神体の丘に向かって拝礼し、天地の神々とブッダ様を讃える祭詞マントラを斉唱した。


 それから神官見習い達は神殿内の掃除をすることになっている。正神官たちは自分の房に戻り、なにやら写経やら瞑想やらを各房でしていて、そのうち夕食の支度が整って食事の時間となった。

食事は神殿の大きな厨房で、事前に提出された房ごとの注文に沿って、料理番がまとめて作ったものだ。神官それぞれの房に配膳されて、師匠と弟子や従者たちがまとまって食べることになっているんだ。


 メニューはダーバ様の注文で野菜ばかりの精進料理だ。ちょっともの足りない気分だよ。

 でもいいんだ、明日は実家に帰れるから、久しぶりにお肉や卵を使った母さんの美味しい料理をたっぷり食べられるしね!


 食事の時に先輩従者のセトさんに聞いてみたけど、収穫後の野菜に〈再生〉のギフトを使っても艶々の採りたて野菜にはならないんだってさ。まだ収穫する前の野菜にプラーナを注ぎ込んでおくと、瑞々しさが長く保たれて保存期間も長く出来て、市場でも高く売れるのだとか。

 ぶつけて割れた芋を直したりは出来るけど、時間が経って萎びた芋を採れたてみたいな艶々には出来ないそうだよ。母さんが喜ぶかと思ったのに、とっても残念だ。

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