第二章 第5話 エルフ(後編)

「エルフを見たことはまだないか? 黒髪黒目で耳が細長く尖ってる連中だ。人族の何倍も寿命が長くて、強力な魔力を備えもち、人族では使えないような大魔法を簡単に使える。敵に回すととんでもなく厄介な連中なんだ」


 エルフだって! 前世でアニメで見たよ!


「伝説によると何千年も昔に、エルフたちは神のような力でこの世界を支配していて、自分達以外のロゴスの民たちを力ずくで従えてたんだそうだ。寿命が長くて高い魔力をもち高度な文明を築いていたが、己の力を過信して傲り高ぶり、天界に攻め入ろうとしたけど、逆に打ちのめされて国が崩壊したんだと」


「それじゃあ、もうエルフの国は残ってないんですね」


「この辺りも大昔はエルフの国の一部だったらしいが、今では連中は人族の国から遠く離れた南方領域に、高い塔を作って暮らしているんだそうだ。

 だが、時々エルフたちは人族の国の近くまでやって来ることがある。そうして昔、世界を支配していた頃のような高慢な振る舞いをするし、奴らは今でも自分達のことを、他のロゴスの民より優れてる〈貴族〉と自称しているんだ」


「そんなエルフに追いかけ回されるなんて怖かったでしょうね」


 想像するだけでぶるぶるものだよ


「今思えば奴らも本気ではなくて、ちょっと人族の小僧をからかってやろうというくらいの気持ちだったんだろう。でもその当時は怖くて死にもの狂いで逃げ回ったし、奴らが追いかけっこに飽きて去っていった後も、また思い直して追いかけてくるんじゃないかと、何日も怖くて家から出られなかった。

 休暇を過ぎても神殿に戻って来ないから、私が一人で実家に戻るのを知っていたラハンの先輩が、何かあったんじゃないかと心配して家まで様子を見に来てくれたんだ」


「そのエルフの〈貴族〉は足が速いんですか? 魔法で速く走ってくるんですか?」


「いや、奴らは空を飛んで来るんだ。底の平たい船のような形した魔導具に乗っていてな。空を自在に飛び回るんだよ」


「飛行機があるんですか!」


「ヒコーキ? ああ、飛行機械のことか。あれが機械なのか魔導具なのかは実際のところよく分からない。ただ、あんな空を飛ぶ機械は王都にもありはしない。高度な魔法が関連した魔導具だろうと言われている」


 うーん、エルフかあ、一度見てみたいなあ、でも怖そうだなあ、と心中で唸っていたら、ルマン様も向こうのテーブルから話に交じってきた。


「ああ、あの時の話か。もう十年くらい前だったな。ジークは神殿に戻って来てからも、しばらくは外に出るのを嫌がってたよな」


「あの節は大変お世話になりました、ルマンさん。ダルタ、あの時に迎えに来てくれたのがルマンさんなんだ」


 ちょっと照れ臭そうな顔をしながらジーク兄さんがルマン様にお礼を述べた。


「神殿者が〈貴族〉にちょっかい掛けられたってことで、当時は神殿の上層部でも頭の痛い問題になってたんだぞ。実家に帰るために私服に着替えていたから、神殿のラハン見習いだとは分からなかったんだろうということに落ち着いたが、当時の神殿長が王都の大神殿に上訴したくらいだからな」


「ルマン様、エルフが神殿の人に手出しをすると問題なんですか?」


「そうだ、大昔の盟約があってな、〈貴族〉もブッダの使徒には配慮しないといけないとか決まりがあったそうだが、それを反古にされたのではと危機を感じられた方々が居られて、侃々諤々の大議論が交わされたんだ」


「よくわからないけど大変だったんですね」


「ああ、結局は神殿者だとは気がつかないで悪戯心を出したんだろうということになったが、あのあと、町の外に出るときは私用でも必ず神官服を着用するようにお達しが出たくらいだ」


「いいか、だからダルタも休み中に町の外に出るときは神官服を着ていけよ」


「僕は父さん母さんから、町の外は危ないから絶対に行っちゃ駄目だって言われてますから行きませんよ、ジーク兄さん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る