第一部 第二章 ラハン修業
第二章 第1話 ラハンを目指す
毎日一生懸命にオムツの洗濯をしていたおかげか、〈再生〉の
「たいしたものだダルタよ、〈再生〉の
次の段階の鍛練として、今度は粘土を捏ねて焼いて土器を作り、それをわざと少し欠いて傷をつけ、
自分で捏ねた土器は己のもつオドが通じやすく、〈再生〉の
「自分で捏ねた土器の修復が出来るようになったら、次は他人が作った土器の修復じゃ。その次は金物の鍋とか石の壁の修復じゃな」
「わあ、僕、修理屋さんになれるね」
「お前はワシの弟子じゃからな。十歳になったら正式に神殿入りして、神官かラハンを目指すがいい」
「お師匠様、ラハンってなんですか?」
「ほれ、門の脇に棒を持った神官がいつも立っておるじゃろ? あれが神殿を守る仕事をしているラハンじゃ」
ほっそりしたりぷよぷよしてたりの体つきの神官が多い中に、少数だが体つきのがっしりした肉体派の神官がいて、棒を持って門に立ってるのを知ってたけど、あれがラハン様か。
そう言えば御神体の丘の入り口にも棒を持って立ってる神官様がいたな。
「わしも若い頃はラハン職じゃったが膝に矢を受けてしまっての。走り回るのが難しくなり、今ではこうして奥向きで弟子をとってのんびり暮らしておる」
「矢で撃たれたんですか? どうしてそんなことに?」
「平穏な町中とは違い、外の世界には争いが満ちておる。盗賊山賊のようなブッダ様の教えに反する者や魔物などから神殿を守り、信徒である町の衆を守るのがラハンの仕事じゃ」
「ブッダ様の教えに反する連中ってなんですか?」
「簡単に言えば、盗むな犯すな殺すなを守らん連中じゃな。他者が努力して手に入れたものを勝手に奪ってはならん。女性に暴力を振るってはならん。罪のない人を殺してはならん、という当たり前のことが守れん罰当たりどもが世の中にはおるのじゃ」
「僕、妹や母さん父さんを守るって決めたんだ。お師匠様、僕はラハンになります!」
「そうか、では十歳になるまでに〈再生〉の
僕はラハンになるため、ダーバお師匠様から戦闘術の手解きも受けることになった。
「よいか、まず最初に身につけるのは無手の技じゃ。本来、我ら神官は暴力を用いるべきではない。全ての生き物に対して慈悲の心で接しなければならんのだ。人は死ねば生まれ変わる。町を襲ってくる恐ろしい敵は、もしかしたらお前の死んだお祖父さんの生まれ変わりかもしれん。野の獣もお前のお祖母さんが生まれ変わった姿かもしれん。そんな相手を無慈悲に剣で切ったり刺したりなど、そうそう出来るものではない」
「僕のお爺ちゃんお婆ちゃんはそんな悪者に生まれ変わったりはしません。それに、転生はここではない別の世界に生まれ変わるのではなかったのですか?」
「うん? 別の世界に転生するというのは誰に教わったのだ?」
「な、なんとなく、あまり覚えてないけど、そんなことを聞いたような気がします」
僕が前世の記憶があるとか言っちゃっても大丈夫なのかな?
でも僕の前世の知識って、赤信号ではトマレだとか、パッカンの音がしたらお皿の前で行儀よく座ってマテだとか、あまりこの世界では役に立たないから、内緒のままのほうがいいかもしれない。
「ふむ、確かに転生は今生とは違う世界に生まれるのだという説もある。だが輪廻は巡るもの。たとえ他の世界に生まれた者も、いつかはまたこの国に生まれることがあるだろう。
それに、肉体を離れた魂は時の流れを飛び越えることもあるという。たまに
へー、前世の記憶を持って生まれてくる人が僕の他にもいたんだねえ。
「それならば、お前のお祖父さんが遠くの世界に転生して暮らした後に、また幾度かの転生を経た末にこの国に生まれ変わり、前世のカルマにより今生で道を誤り、我らの前に敵として現れることもあるやもしれん。
畑で重い鋤を引く牛が、我らのまだ見ぬ未来の孫や曾孫が生まれ変わりの果てに今生に転生した姿なのかもしれん。だからこそ、あらゆる命には慈悲を持って接しなければならないのじゃ」
「お師匠様、カルマってなんですか?」
「カルマとは因果じゃ。全ての物事には原因があり、それに対応した結果がある。輪廻転生もその因果による。今生で悪業を犯せば、来世では悲惨な境遇に生まれ落ちる。不遇な人生を送っておる者は前世のカルマによるものじゃ。
その悲惨な境遇に負けて更に悪業を犯してしまえば、次は知恵あるロゴスの民ではなく、獣や虫に生まれ変わり、鞭打たれて重い荷を引く一生を送ることになるやもしれん。人に足で踏み潰される惨めな生き物になるやもしれん」
お師匠様はじっと僕の目を見ながら話し続けた。
「だからそうならぬために、人は慈悲を持って生きなければならない。他人に慈悲を施せば、いつかは我が身に帰ってくる。カルマじゃ。たとえすぐに結果が見えずとも、巡りめぐっていつかは己の為となる。そして存分に生きて功徳を積んだ魂は、良き転生を迎えることになるのじゃ」
「はい、六道を下へと落ちないために、慈悲を持って生きるのですね!」
「六道か、難しい言葉をよく知っておるの。物覚えが良いし、もしかしたらお前も前世の記憶があるのかもしれんな。ウワッハッハッハッ!」
張り詰めた重い空気を払うようにお師匠様が大声で笑った。
「そ、そうですね。なんか覚えがあるような無いような気がします。あ、ははははは……」
「ともかく敵が相手とは言えども残虐に振る舞ってはならん。殴られ蹴られ切られれば、誰でも血は出るし、痛く苦しい。相手が感じる痛みや恐怖を己のものとして実感するために、まずは素手で闘うのじゃ。人を殴って己の拳が傷つき痛んだなら、それは相手が感じている痛みだと理解せよ」
そうして、読み書きや御祈りの
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