第一章 第6話 ガラポン転生

「特等! 大当たりぃ!」


 目の前で天人が鐘をカランカランと振り回して大声で叫んだ。オレがガラポンを回したらコロコロっと金色の玉が転がりだしてきたのだ。


「特賞は百年に一回位しか出てこないんですよ。そろそろかなーとは思っていたけど、お客さん運が良いですね、何か持ってますよ!」


 興奮してるのか頭についてる花をピコピコ揺らして天人が話しかけてきた。


 それはどうも。あまり頭を振ると花が落ちちゃいませんか?


「ああ、この花はですね、頭皮から生えているので落ちたりしないのですよ。それで、この特賞はですね、過去世発現と言いまして、なんと前世の記憶が来世でも甦るんですよ!」


 ああ、アニメとかで良くあるやつですね。母さんと一緒に見てたアニメでそんなの見たことあります。


「いいえ、百年に一度くらいしかない凄いチートなんですよ! 知識チートで俺ツエーーとか出来ちゃいますよ? それに特典は前世の記憶だけではないんです。六道昇格ブーストが付きます。

 あなたはワンちゃんですから畜生道下位なんですけど、来世ではきっと畜生道上位のモフ耳の獣人か、もしかすると修羅道のエルフとかですね!」


 えっ? オレって人間ですよね?


「いいえ、あなたは五歳のオス犬の魂です。人間たちの中で一匹だけで飼われていると、自分のことを人間だと思ってしまうペットが多いそうですけど、来世では間違いなく言葉を喋れるロゴスの民になりますよ。ラッキーでしたね!」


 ……なんかすごくショックです、オレって父さんと母さんの本当の子供じゃなかったなんて。


「六道の位階を上がるのはとっても大変なんですよ。悪いことをすればすぐに転がり落ちますけど、上がるには相当の善根を積まないとなかなか位階は上がりませんからね。

 大抵の魂は転生しても同じ位階のままか、もしくは一段階か二段階落ちになるんですから」


 はあ、ラッキーだったんですね。


「あなたの生きてたシャバ大銀河世界の地球では獣人は絶滅種族ですから、畜生道に生まれると、問答無用で牛豚鳥魚などに振り分けられてしまいます。

 けど次の転生先はサハー大銀河世界ですからね、ほら、玉のここにサハーって書いてあるでしょ? あそこは獣人もエルフも人もロゴスの民は全種族揃ってますから、今生ではありえなかった色々な経験を積めると思いますよ」


 そう言われると、ちょっと楽しみになってきました。


「おまけに恩恵ギフトも付いてますね」


 なんかすごい恩恵ギフトなんですか?


「ほら、玉のここに〈再生〉って書いてあります!」




   * * *


 初夏を迎えたある日、神殿のダーバお師匠様に八歳になった御祝いを頂いた。魔除けと安産祈願の御札だったけど、なにこれ?


 家に持ち帰り、父さんと母さんに見せたら大喜びしていた。その夜はいつもよりもちょっと豪華な御祝いのご飯が出てきた。美味しー!


「八歳の誕生季おめでとうダルタ。無事に良い子に育ってくれて嬉しいわ」


「ブッダ様、オレの息子がこんなに大きくなって、本当にありがとうございます!」


 父さん母さんは上機嫌で御祝いの言葉とブッダ様への感謝の言葉を口にしていて、そしてこう続けた。


「ダルタ、実はなもう一つおめでたいお知らせがあるんだ」


 父さんはお酒を飲んで赤い顔してとっても嬉しそうだった。母さんもいつもよりずっとニコニコしてた。


「あのねダルタ、あなた、お兄ちゃんになるのよ」


「えーっ、僕、お兄ちゃんになるの? 赤ちゃんが生まれるの?」


「そうだ、お兄ちゃんだ。弟か妹かまだわからないけど、可愛がってやってくれよ」


「もしかして赤ちゃんが出来たんじゃないかな、っとは思ってたんだけど、まだ、はっきりとはわからなかったのよね。でも昨日、町中に辻説法に来てた神官様に会った時に、おや、ダルタのお母さん、おめでたの相が出てますよ、って声をかけられたのよ。きっとその神官様がダーバ様に話してくださって、それで安産祈願の御札をくださったのね」


「偉い神官様の作った御札を頂いたんだ、きっと元気な良い子が生まれるぞ!」


「僕、ちゃんと赤ちゃんの面倒を見るよ。オテもマテもちゃんと教えて、お利口な子に育てるよ!」


「あら? オテマテって何かしら? よくわからないけど赤ちゃんを可愛がってあげてね」


「ダルタはきっと良いお兄ちゃんになるさ。生まれてくる子もダルタのように利口な子になるに違いない!」


 父さんも母さんも楽しそうに幸せそうに笑っていた。僕も弟や妹ができるのが嬉しくて、前世の知識を生かして英才教育をするつもりで張り切っていたんだ。


 あれ? でもオテマテって赤ちゃんの役に立つのかな?

 でも行列をきちんとナラベとか、道を渡る前にミギヒダリとかなら大丈夫かも。




 僕は立派なお兄ちゃんになるんだと、毎日張り切って神殿に通って読み書きを習い、経典を暗唱したり、運動して体を鍛えたり、恩恵ギフトの修練を重ねていた。


 充実した毎日を送る中で季節は夏から秋へ、そして冬へと移り、もう少しで春になるという頃に、我が家には待望の新しい家族が増えた。

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