016
「ねぇ、綾香ちゃん。」
「何かしら。」
音楽室へ向かう途中、結に声をかけられた。
私は彼女の手を引きながらそれに応える。
「すごく聞きづらいことを聞いても良い? 」
「どうぞ。」
考え込んでいるのか、言葉を選んでいるのか、しばらく間をおいて彼女は言ってきた。
「私も何か力になれることないかな。」
「無い。」
私は即答する。
「じゃ、じゃあ何かしてほしいことは無いかな。なんでもいいよ。」
「無い。」
私は歩みを進めようとする、しかし引っ張られて私はその足を止めた。
「でも……。」
「別に、してほしいこともなければ力になれることも今のあなたには無いわ。あなたがこの状況で自責の念に駆られてるのかもしれないけどそんなこと考える必要は無いわよ。」
結は不満そうな顔をしている。
その表情は珍しく私にもわかった。
「でも、私はあなたに助けてもらえるほどできた人間じゃない。」
彼女の目から大粒の涙が流れ落ちた。
「私は、綾香ちゃんがいじめられていることを知っている。知っていて気づかないふりをしたの、見て見ぬふりをしたんだよ。」
そしてこう言葉を紡いだ。
「そんな私が、あなたに助けてもらう資格なんて……無い。」
結はそれ以降、口を開こうとせず押し黙っていた。そうか、私がいじめを受けていたことを知って居たのか。
だからずっと……。
私は慎重に言葉を探した。自分でも自分が不器用なことは分かっている。
でも精一杯のそれを伝える。
「じゃあ、あなた死にたいのかしら。」
結は答えない。
「違うでしょう、あなたが最初掃除用具入れに隠れてたのは、怖かったから。生きたかったから。違う? 」
結は答えない。
「生きたいって感情に嘘をつく必要は無い。それに私は見て見ぬふりをされても怒らない。
あなたが今、それを申し訳ないと思えるならそれで充分。」
ゆっくりと結は顔を上げた。
その目は真っ赤にはれ上がっており、鼻水を垂らしている。
私は自分のハンカチで鼻水と涙をぬぐいながら言った。
「どうしても気が済まないなら、一つお願いしたいことがあるの。」
彼女の目を見つめながら、私はずっと思っていた事を言った。
「いじめられてるような奴だけど、こんな奴で良ければ、友達になって欲しい。」
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