007
まずは放送室に向かう事にする、たぶん一番楽に済むからだ。
廊下を歩く、歩く、歩く。たまに後ろを振り向くと神山結が怯えながらも私の服の裾を引っ張りながら着いてきてくれていた。
「服が伸びるわ。」
私は彼女の手を払い、手を差しだした。
彼女はしばらく私の方を見たが、意図を察したらしく手を強く握る。冷たいながらも彼女の体温が確かに伝わってくる。暖かい。いつ以来だろうか、こんな気持ちになったのは。
学校でも家でもいつも孤独な自分にとって誰かの肌の温もりは新鮮で、そして心地よかった。私は暖かいと感じている。彼女はどうなのだろうか、私の手の温もりをどう感じるだろうか。
放送室に着いたが中には誰も居ない、私は当たり前のように入る。
「これね。死神の放送は。」
「えっと、放送機材ですよねこれ。これをどうするんですか。」
「八百万の神ってあなたは知ってるかしら。」
「確か万物に神が宿るって奴ですよね。」
「そう、そして怪異と神の本質は同じなのよ。」
違いは信仰されているか否かであって本質が認識によって生じることには変わりないのだ、だからこそある程度知識があれば供養できる。
「さてと、さっさとやってしまいましょうか。いつあの怪物が現れるか分からないし」
私は札を貼り浄め塩を振りかける、そして唱える。祈るように。
「終わったわ、これで一つ目」
「なんだかあっさりしてるんですね」
「そもそも九十九神とかの道具に取りつく怪異は対処が楽なのよ。殆どが使わなくなることで解決するぐらい」
「なんで使わなくなるだけで解決するんですか。」
「正確には忘れ去られる事で怪異は効力を失うの。存在するから噂が流れるのではなく、噂が流れるから存在を確立できる。」
私は続ける。
「だからこそ、一番厄介なのが人の怨念が込められた怪異。あれは見るだけで気が滅入るわ。」
「千鳥野さん、質問してもいいですか? 」
「いいわよ、ただ名字で呼ぶのだけはやめてほしい。綾香でいいわ。あと敬語も不要よ。」
「じゃあ綾香ちゃんはいつからこういうのが見えてるの? 」
やはり聞いてきたか、まぁ興味本位で聞かれるのはしょうがないだろう。私は記憶を辿りながら答える。
「多分四歳ぐらいのときからかしら。最初は勝手に動く人形とかその程度だったけど。」
「じゃあ、こういったことをするようになったのは? 」
「小学三年生の時。クラスメイトが行方不明になった時が初仕事だったわ。」
「……怖くはないの? 」
「そんな感情はとっくの昔に消え失せたわ。ただ、仮にその感情があったとしても私のやることは変わらない。」
私は続ける、言葉を続ける。強く有るために、強く見せるために。
「怖がって行動しないで大切な物を、大切な者を失う方が私には耐えられないから。」
そうだ、そうだった。だから私は戦っているのだ。
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