002
千鳥野綾香はどんな人物であるのか一行以内で答えよ。
答えは、愚かな人間。である。
全く、私が文芸部なるものに入部しなければそもそもこのような事態に巻き込まれなかったと心底そう思う。何故文芸部何ぞに入ったのかといえば答えは簡単だった。
人が居ないから、独りで済むから。簡単に云ってしまえば、今年部員が居なければ廃部だったのだ。そこに目をつけた私は校内に自分用のスペースを作るために文芸部への入部を決意したのだった。
浅はかな考えだとなぜ気づかなかったのだろうか、人ならざる者が居る可能性を。
「先輩、何考え事してるんですか? 」
彼女は無邪気な顔で私を見る。やめてくれ、私は先輩なんて言ってもらえるような人間ではない。
「先輩、無視しないでくださいよ。あ、もしかしていつものアレですか、ツンデレと言う奴ですか。」
「違う、口下手とツンデレを一緒にしないでくれない? 」
「いえ、先輩はツンデレです。間違いないです。私が今決めました。」
「あなたはいつになったら私を先輩と呼ぶのをやめるの。知っているでしょ、私が先
輩と呼ばれるだけの器がないこと。そして、そう呼ばれることが嫌いなことも。」
「いえいえ。知りませんよ、知りたくもありません。」
彼女は続けた。
「知ってしまうことは理解してしまう事です,私は現実否定派の人間ですから。」
彼女の名前は写観 京。カタカナで書くとウツミキョウだ。
入部して部室に入ると真っ先に私を出迎えたのだ。
確か、
「うらめしや! 」
と第一声を言っていたのを覚えてる。私が無視して椅子に座ると、
「う、うらめしや……。」
「驚かすならもう少し上手くやりなさいな。」
あまりにもかわいそうなので反応してしまった。まずい、“認識”してしまった。
見て見ぬふりをするのは見える家系での鉄則である。なぜなら認識するということは存在を認めることなのだから。
「はい、先輩! 」
「……私はいつからあなたの先輩になったのかしら。」
と言う経緯があって今彼女は私に懐いている。正直困っている、最初は祓ってしまおうかとも思ったのだが、
「何でもしますから祓うのだけは勘弁してくださいよ。」
何でもするという言葉に釣られてしまって現在は彼女に雑用を色々頼んでいるのだ。
そして今に至る。
「先輩、筆が止まっていますよ。少し休憩してお茶にしませんか? 」
「私がカフェインに弱いのをあなたは知っているでしょう。」
「甘いものはお好きだったと記憶していますが。」
鋭い、この幽霊は私の扱いを早くも心得たらしい。
羊羹を頬張り熱い緑茶をすすった私を彼女は嬉しそうに見ている。
「なぜそこまで見つめるのかしら、気持ち悪い。」
「私は人が幸せそうに食べ物を食べる姿が好きなんです、私にはもうできないことですから。」
「そうね。」
「ところで先輩、こんな話をご存じですか?」
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