第35話 神隠しの少年たち
朝まで健蔵さんの捜索は続いた。
ヤマの人たちは家に帰ろうとしなかった。
興奮と不安と、そして、熱に浮かれたようにみんなと一緒にいたがった。
一人なって家に帰るということはしたくなかった。
だからみんなでオボコ鉱山小学校の体育館で過ごした。
朝になり、雨が上がり、太陽が出た。
雨上がりのグラウンドには盆踊りの残骸が散らかっている。
三人の少年がいた。
最初に気づいたのは丸山先生で、彼らの顔を見て、おやっと思って、ウチの子じゃないな、まてよ、まさかと思ったけれど、声をかけて名前と住まいを聞いたらやっぱりそうで、すぐに警察に電話をした。
健蔵さんの徹夜の捜索で疲れ切っているはずなのにいつもののんびりした様子を崩さないあのコロンボ刑事さんがパトカーで来た。
ヤマの人々は、グラウンドで三人の少年たちを囲んでいた。
少年たちはぼんやりしていた。
パトカーを降りた刑事さんは少年たちを見ると、一瞬ぎくっと立ち止まった。
すぐに手にしたビラと少年たちを一人一人見比べ、学校名や住所そして名前を確認した。
「間違いない」
行方不明になっていた三人の小学生たちだ。
おまわりさんがどこかへ電話をしている。
ボクは三人にウインクした。
彼らもウインクを返して来た。
ボクたちは消えた。
消えた、というよりも場所をワープした、移動したという方が正解かもしれない。
この地上で肉体を失ったボクらはとても自由だ。
だから、どこかへ行きたいと思った瞬間にそのどこかへ着いている。
空気の壁がビョーンと伸びて時間とか距離の両端をつまんでくっつけてショートカットの近道を作る。
壁を越える感じ、ってわかんないだろうけど。
そんな感じで三人はそれぞれのおとうさんやおかあさんに会いに行ったんだと思う。
ボクは彦作じいちゃんに会いに行った。
山小屋に着くと、小屋の裏のベンチにじいちゃんがいた。
じいちゃんはこちらに背中を向けてナイフの刃を研いでいる。
シャッシャッシャッ。
水で洗って、シャッシャッシャッ。
ああ、じいちゃんの背中、今まで気がつかなかったけれど、ずいぶん歳とっちゃったんだねじいちゃん。
ボクはじいちゃんの肩に手を置いて声をかけた。
もちろん聞こえるはずはないし、見えることもない。
ボクの肉体は無くなっている。
「じいちゃん、ボクもう行かなくちゃなんない」
するとじいちゃんはゆっくりと後ろを振り返った。
ボクの声は聞こえるはずがないのに。
姿も見えるはずがないのに。
ボクをまっすぐに見た。
そして、ボクを、見えないはずのボクを、抱きしめた。
じいちゃんはあったかくて、ちょっとくんせいのにおいがした。
今までありがとう。
じいちゃん。
またね。
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