第31話 踊り狂う
学校のグラウンドで盆踊り。
丸山先生が太鼓を叩く。
浴衣の列が輪を描く。
葉子ちゃん、校長先生、所長さん、ヤマの人々がみんなで踊る。
鉱山婦人部の出店で、浴衣姿のボクと清春がヤキソバを食う。
雨が落ちてくる。
人々は気にしないで踊り続ける。
ボクと清春はジンギスカンを食う。
雨は本降りになった。
ボクと清春も踊りの輪に入った。
清春が飛び跳ねて踊る。
しなやかな関節を生かして、飛んだり跳ねたりクネクネしたりのけぞったり。
奇妙でおかしいんだけどエネルギッシュな踊りだ。
葉子ちゃんもオリジナルな振りで踊りまくる。
浴衣の袖を肩までたくし上げて、白い腕をヒラリヒラリと揺らして振って回してひねって突き上げて、舞い踊る。
ダンスのような盆踊り。
ボクはボクでぼんやりを振り捨てたくて頭の中が真っ白になるまで踊り狂う。
頭を激しく振って、肩をそびやかして、片脚で飛び、別の片脚で飛び、両脚で踏ん張り、拳を握りしめて踊る。
ボクたちだけではない。
ヤマの人たちみんな。
偉い人たちもそうでない人たちも。
男も女も大人も子どもも。
婦人部の屋台の人たちも屋台を切り上げて、踊る。
踊る踊る踊る。
雨と汗で浴衣が身体に張り付き、髪の毛もびしょ濡れで、せっかくパーマ屋さんで綺麗に仕上げたよそ行きのヘアスタイルが原型をとどめないほど乱れる、それでも踊り続ける。
みんな一言も口を開かないで、いや、口は大きく激しく開いているけれどそれは話すためではなくて、腹の底からタマシイのかたまりを吐き出すために。
みんなくるくる回る。
荒々しく飛び跳ねる。
しなやかに腕を振り上げる。
脚を踏み鳴らし、水たまりを蹴りちらす。
汗が流れ、水滴が激しく散り、飛び、雨が激しく叩きつけ、びしょ濡れで踊る、狂ったように踊る。
狂って踊る。
みんな、狂った。
所長さんのバーコードヘアは悲惨な状態になっているけれど、誰もそれを笑わず、所長さんも今日はクシでなでつけることもなく、踊り狂う。
みんな狂った。
丸山先生も夢中無心でバチを振り回して太鼓をたたく。
激しく繊細に。
太鼓の皮が破れそうなほど、息を詰めてタマシイを叩きつける。
数台のパトカーが静かにやって来る。
校庭の隅に停まる。
ハッと我に返ったように踊りがすうっとしずまる。
人々の注視の中、刑事さんが降り立つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます