第27話 何かが来た


ボクが腹痛に顔を歪めたちょっとの変化もノッポは見逃さなかった。


よほどじれったかったのだろう、先に行くチャンスだ、今だ、とスイッチが入った。


グンとストライドを伸ばし、しなやかにボクを置き去りにして行った。


ボクはとうとうひとりぼっちのランナーになってしまった。

係りの人がボクの後ろを自転車で付いてくる。


「棄権する場合はコースから外れて手を挙げなさい」


棄権なんかするもんか。

完走するんだ。

それがヤマの人たちとの約束なんだ。

走りきってやる。


でも、痛い、ああ、イタタタ。


その時だ。

背後から足音が近づいた。

聞き覚えのある、あの足音。

地面を蹴って走る肉球と爪の音。


短い脚で背中を丸めて飛ぶように走るコヤジの足音だ。


今日は彦作じいちゃんの山小屋においてきたのに、追っかけてきたのか?


足音はどんどん迫り、

セマリ、

来た、

キタ、キタ、

ボクのお尻のすぐ後ろ、

接近、接近、

かかとのあたりに接近、

セッキン、セッキン、セッキーーーン、

なんとそのまま、

スピードをゆるめずに、


ドン!!


ええっ?!

背中に体当たり?!


コヤジ!

はんかくさい!!

遊んでる場合じゃないべさ。


……ん……んん!!

…あれれ…な、なんだ……なんだこれは…んんんん!!


脚が、アキレス腱が、シカになったようだ。

いや、シカじゃない。

もっと力強くて、走りが「野太い」感じ。


そう、クマだ。

これは、オヤジの走りだ。


足の裏とカカトが地面をしっかり捉えて、ガツンと蹴る。

オヤジの重くて強い走りだ。




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