第19話 キミ、なにもの?


合唱が終わった。


UFOは来ない。


半信半疑だったわけじゃない。

まったく信じていなかった。


あたりまえだべさ。

だってスプーンとUFOがイメージとしてどうしてもつながらなかったし、そもそもオボコ岳のふもとでずっと暮らしてきたボクらが一度もUFOなんか見たことがなかったのに、なんで今、都合よくテレビカメラの前に来るの、来るわけないしょと思ったけれど、ほらやっぱり来なかった。


みんなも同じ気持ちだったのか、なんとなく恥ずかしいことをしてしまったという空気が強くなった。


テレビの人たちはなんの変化もないことを確認すると、


「はいカット。みなさんありがとうございました。校長先生、ご協力ありがとうございます。おかげさまでいい画が撮れました」


そう言って淡々と機材をしまいはじめた。

なんかこのドサクサでさっきのボクの「オボコ岳そのものがUFOなんです」発言がうやむやになってよかった。


校長先生が後ろを振り返って誰かに手をあげて合図した。

いつかの刑事さんだ。

刑事さんはエスパー横井さんの前に進み出て、


「あの、私、こういうものでして」


と、警察手帳を見せた。


「実は最近、近隣の村で児童の行方不明事件が連続しておりまして、この子たちなんですけどね」


と、三人の行方不明児童の写真が印刷されたビラをエスパー横井さんに見せた。


「横井先生のお力で、何か手がかりなどが見つかればと思いまして。どうでしょう、この写真を見て、何かお感じになられるところなどございませんでしょうか」


エスパー横井さんは、ビラの写真にしばらく念を送っていた。


どんな言葉が飛び出すのか、みんなは瞬きをするのも忘れて待った。


横井さんはずいぶん長い時間ビラを見続け、目を閉じ、また目を開いてオボコ岳を見て、空を見上げ、そして再び目を閉じた。


そしてまた長い時間が経過した。


やっと目を開けて、刑事さんを見た。

みんな注目した。


「わかりません」


みんなは落胆した。

でも、刑事さんは軽く頷いて礼を述べた。


「いやいや、ありがとうございました。地道に捜査せよ、ということなんでしょうな。いやいやまったく、お手をわずらわせてしまい誠に申し訳ありませんでした」


そう言うとさっさとどこかへ行ってしまった。


エスパー横井さんはまだオボコ岳を見つめていた。

テレビの人たちが機材をしまい終わったようで、エスパー横井さんに、「じゃ、次行きましょうか」と声をかけたのを校舎に向かっていたボクは背中で聞いた。


すると突然、地底深くから、あの音がせり上がってきた。


カァーン、カァーン。


みんなぎくっと脚を止めた。音に耳を澄ました。


オボコ岳中津磐がせり上がって両側の岩に当たるあの音が校庭に響いた。

カァーン、カァーン。

5分間くらい「カァーン、カァーン」は続いた。

そして、始まった時と同じように唐突に終わった。


みんなオボコ岳を見ていた。

まるでUFOを見るかのようにぼんやりと棒立ちになって。


気がつくとエスパー横井さんはボクの横にいた。

目の上に垂れた長い前髪をかきあげもせず、見おろしていた。

ボクを。

そして、小さな声でささやいた。


「キミ、何者なの?」





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