第17話 地底からの音


深夜寝ていると地底深くから「カァーン、カァーン」という乾いた岩音が聞こえる。

不気味で不思議な音だ。


「あの音、なんだろうね?」


朝ごはんの時に彦作じいちゃんに聞いた。


「オボコ岳の中津磐が少しずつせり上がっているんだ」


ボクはすぐには理解できなかった。


「両側の岩とこすれ合ってあんな音を出すんだ」

「ふーん。せり上がってせり上がって、最後はどうなるの?」

「今までは途中で止まった」

「今までもあったの?」

「ああ、三十年くらい前に、あの音が半年続いた。中津磐は三メートル伸びてた」

「それってすごいことなんじゃないの?」

「そうか?」

「絶対すごいと思う。テレビとか来なかったの?」

「来たかな。どうだったか忘れた」

「そういえば、オボコ岳って有名なUFOスポットらしいね」

「そうか」

「オボコ岳登山にやって来る人って、ほとんどがUFO愛好家らしいよ」

「そうか」


じいちゃんが「そうか」としか言わない時は、ほとんど関心がないか怒っている時だ。

ボクは空気を読んだので、この話題はそれ以上深まらなかった。


二人で静かな朝ごはんをすませた。

台所で食器を洗っていると、じいちゃんがお茶をすすりながらボソッと言った。


「オボコ岳そのものがUFOなんだ」


断言。


これってすごい断言でしょ。

問題発言でしょ。



校庭にマイクロバスが止まっていた。

テレビカメラが校舎と登校してくる子どもたちとオボコ岳をおさめたアングルで撮影していた。


「なにこれ」


清春に聞いた。


「テレビ」

「そんなことは見ればわかるよ。なんでテレビがこんな村に来たの」

「UFOだってさ」


ボクは今朝のじいちゃんの問題発言は誰にも言わないと決めた。

言ったら絶対にテレビはじいちゃんにインタビューしにいくだろう。

じいちゃんはそういうことが大嫌いなんだ。

カメラに撮られることとか注目されることとかが。

あの山小屋にテレビが押しかけたら絶対に猟銃をぶっ放すに違いない。

そうなれば少なくとも四、五人は死ぬだろう。

じいちゃんは狙った獲物は絶対に外さないからもっと死人が出るかもしれない。

八つ墓村になってしまうに違いない。

だから言わない。


「昨夜またオボコ岳が鳴りはじめたんだってね」


いつの間にかテレビカメラがボクに向いていて、マイクを突き出されていた。

テレビの人がオボコ岳を指さして言う。


「あの山は、専門家の間ではUFOの墓場と言われているんだけど、きみはUFO見たことある?」

「墓場かどうかわからないけど、オボコ岳そのものがUFOなんです」


その途端、周りの空気が変わった。

温度が3度くらい下がったかもしれない。

みんなの驚きの視線がボクに集まった。

あ、やっちゃったと後悔した時には遅かった。




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