第13話 神隠し


休み時間、清春が、おもらしした一年生の着替えの世話している間、ボクは頬杖をついて校庭をぼんやり見ていた。


校庭にパトカーがきていた。


校長先生がおまわりさんを連れて教室に入って来た。


「えー、みなさんも知っていると思いますが、近くのいくつかの村で、小学生が行方不明になっています。大関村、徳田村、脇ノ沢村…今までに三人の小学生が突然いなくなり今も行方知れずです」


清春が手を挙げた。


「校長先生!」

「なんだね、佐藤君?」

「大関、徳田、脇ノ沢…だんだんこのヤマに近づいてますけど」


子どもたちは恐怖にすくみあがった。

おまわりさんの後ろから背広を来たおじさんが前に出た。

コロンボに似たくたびれた感のあるおじさんで、ニコニコ笑いながらみんなに話しかけた。


「なんもなんも。そんな心配すっことないから」

「この人は刑事さんだ」


校長先生がそう言うと、教室中がワッとなった。


テレビでしか見たことのないスターを見るような目で、「デカだ!」「かっこいー!」「背広の内ポケットに警察手帳入ってるんだべ!」「手錠は?」「ピストル見たいべさ!」とかなんとか一斉にガヤガヤが始まった。


校長先生が両手をパンパンと打ち鳴らしてみんなを黙らせた。


「はいはい、刑事さんの話を聞いて。どうぞ刑事さん」

「あー、んだから、犯罪と断定したわけではないんだヮ。ある日突然、ふっといなくなったんだヮ。何かの事故かもしんないし、神隠しかもしんないっしょ」


清春が身を乗り出した。


「神隠しっ!?」


 子どもたちの間に、今度は「かみかくし」という言葉がさざなみのように広がった。

 刑事さんはあわてた。


「あ、いや」


 校長先生がうまくまとめた。


「こういうことなんです。一人では出歩かない。夜は出歩かない。知らない人にはついてかない。ヤマの奥深くには入らない。いいですね。これからその子たちの写真のビラを配ります。家に持って帰って、もし見かけたら学校か警察に連絡するようにおうちの人に言ってください」


こどもたちは、不安と恐怖ながら、「はーい」と声をそろえた。

校長先生とおまわりさんが出て行ったあとも、清春は何か考えていた。

そして、みんなをを見回し、おごそかに言った。


「牛沼の神隠しについて話します」


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