第11話 神様の山の麓にある小学校


オボコ鉱山小学校は小さい。


子どもの数は一年から六年まで合わせて56人。

二つの教室をぶち抜いて一つにした大きな教室で全員が勉強する。


学校名の「鉱山」というのは、この村が、宝石の材料になる「菱(りょう)マンガン鉱」という美しい桜色の石を掘っている小さな鉱山集落、オボコ鉱山だからだ。


そして、「オボコ」というのは、「オボコ岳」という風変わりな格好をした岩山からきている。


漢字だと雄鉾と書く。

「鉾(ほこ)」という武器に似ているからその名がついたと言われるけれど、三本の巨大な岩が天に向かって突き出た姿をしている。


真ん中の岩が最も巨大で荒々しい。

中津磐、ナカツイワと呼ばれている。

山に石の「岩」じゃなくて、難しい方の「磐」の字。

知る人ぞ知るロッククライミングの聖地らしい。

登っていた人が長さを測ったら二百八十メートルだったそうだ。


中津磐のてっぺんには神社のしめ縄が飾られてある。

しめ縄は、神域と俗世を隔てる結界だとじいちゃんが言っていた。

つまり、この山は神域ということだ。

大昔からこの地に住んでいた人々は、このオボコ岳を「神々が群れをなして立つ山」と呼んでいたそうだ。

つまり、神様の山なんだ。

それもハンパないほど大勢の神様が群れている山だ。

そりゃ怖いはずだヮ。


中津磐の両脇には、それより少し低い岩が(それでも、二百メートル近くはあるそうだ)寄り添うように反発し合うように押し合いへし合いして地球の奥深くから突き上がってきた、という感じのむきだしの荒々しさで突き立っている。

あるいは、星の巨大なかけらが天からゴォッと降って来て、ズンズンズンって突き刺さった、感じ。のようにも見えるし、中津磐を両の手のひらで合掌して包んでいる、ようにも見える。



ボクと清春が校庭に走り込んだ時、学校は静まり返っていた。


突然、丸山先生の声がスピーカーから大音量でとどろいた。


『斉木比呂様、佐藤清春様御一行ただいま御到着。そのままグランド十周!』


校舎の中で一斉に笑い声が起こった。


ボクらは、タッタカターと両手を広げて旋回Uターンしてグランドへ戻り、遅刻ペナルティ周回を開始した。


コヤジが校舎の方に走っていくと、歓声が弾けて子どもたちが教室から飛び出してきた。

みんな、こわごわコヤジに触ったり、なでたりした。

ボクらが十周走り終わる頃には、みんながコヤジを抱きかかえたり、一緒にかけっこをしたり、すっかりなじんでしまっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る