第7話 やっと会えた


不思議とボクは怖くはなかった。

怖くはなかったけれど、彦作じいちゃんの言葉を思い出した。


『いつの日か、わしたちは出会うだろう。そのとき、おまえがいのちを落としても、わしがいのちを落としても、どちらでもよいのだ。わしはいつかきっと、おまえに、会いたかったのだから』

『なにそれ?』

『エスキモーの詩だ』


片耳オヤジの息がボクの顔にかかった。

生温かいけものの匂い。

その息ではっきりわかったんだ。

そう。

ボクは片耳オヤジに会いたかったんだ。


彦作じいちゃんにも誰にも言ったことはないし、ボク自身そんなこと考えたこともなかった。

とうさんとかあさんを殺したやつだけど、ボクは憎いと思ったことは一度もない。

それどころか心の奥底では、会いたいとずっと思っていた。

エスキモーのように。

それが今、はっきりわかった。

ずっと、いつかきっと、おまえに会いたかったんだって。

だってさ、いつでも、風の中に片耳オヤジの息を感じていたんだから。

おまえのとうさんもかあさんも、そのまたとうさんもかあさんも、ヤマに住むすべてのいきもの、ずっと昔からのみんなの息が風を作ってきたんだって、いつか読んだ本に書かれてあった。

だから、「いき・もの」っていうんだって。

その風に包まれて、身体がいきものの息を感じるとき、ボクはいつでもおまえを感じてきた。

だからボクは言ったんだ。


「やっと会えたね」


完全に場違いだった。

すぐに逃げるべきだった。

片耳オヤジがボクに会いたいなんておもうはずないっしょ。


両手を高く上げた片耳オヤジはボクを見下ろした。

襲いかかろうしていた。

ボクは彦作じいちゃんのように、「真似て、誘って、愛する」を実践しようとしたが、脚がすくんでしまっていた。


片耳オヤジが右腕をブンと振り下ろした。




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