一人で引っ越しって大変だし喋り相手がいないから彼を呼んだのだ!
マッシー
しりとりがしたい
長く感じる階段も、ずっと上ってればそのうちどうでもよくなってくるものだ。
しかし、ずっと一人なのもそろそろ限界だ。
運べども運べども消えて無くならない荷物の数。
無言で作業という悲しい現実。
クソ暑い真っ昼間の地獄。
「……一人でやろうとするからいけないんだ」
そう思い立った私は、近くに住んでいるという彼に連絡した。
■■■
彼は私にすぐに行くと言い、私の想像を越えるスピードで来てくれた。
彼を見て私が顔を赤く染め、引きつらせたのはまた別の話。
そして、暫く二人でやっていたのだが……。
「……暇。しりとりしたい。やらない?」
「いきなりだな。どうした?」
一階の駐車場から四階の
まぁ一人よりはマシだけど。というか、労働力というより喋りたいから呼んだのだ。
「単に手軽に今出来るのってしりとりくらいだなって思っただけ。あ、勝っても報償とかは無しで。どうせ私が負けるから。やらない?」
「いやだ」
即答かよ。こいつ、報償無しというのが気に入らないのか?
なんだかんだ言ってやってくれるのがこいつなのだが。
呆れ顔を作る彼に若干顔を引きつらせつつ、もう一度アタック。
「黙ってこれ運ぶ作業って、退屈なんだけど?」
ふと隣で歩く彼を見る。と、顔が赤くなった。
「どうした?……あぁそうか、暑いからね。具合悪い?」
それこそいきなりだろ。
「いや、そうじゃないんだけど……あんたさ、そんな格好してて恥ずかしくないの?隣にいる私が恥ずかしいんだけど?」
「どこが恥ずかしいんだよ。普通だろ?これを見て恥ずかしいって感覚がわからないね」
おいおい、嘘だろ……今彼が着ているのはどこからどう見てもパジャマだ。
早く来てくれたのはありがたいが、着替えくらいして来いよ。
顔は無駄に整ってるからもったいないというかなんというか……。
「寝て起きてそのまま来ましたって格好して。私、ホンっとうに恥ずかしいなあ?なんで来たのかなあ?」
「あっれぇ~?一人じゃ引っ越し出来ない~業者に任せるほどお金もないぃ~どうしよう~って俺に泣きついて来たのは誰だったかなぁ?俺の聞き間違いかな?俺の貴重な休日に、大好きな睡眠をやめて来てやったんだけど?」
うっと言葉を詰まらせる。
確かにそうだ。休みが珍しいのは承知で、今日がその休みなのを知ったから呼んだのだ。
とは言え、パジャマで来るのはどうなんだろう。
「……どうでもいいから荷物運ぼう?」
車に戻ったついでに軽く睨み、視線を荷物に投げると彼はフッと笑った。
「うっわぁ~どうでもいいんだ?じゃあこのまま帰ろっかな?」
「何で帰るの?私が苦労してるのに。分からないのかなあ?あれぇ?そういえば私、あんたの大学のレポート手伝ったよなぁ?うん?何か言ってみ?」
若干被せて言うと、今度は彼が顔を引きつらせた。
まぁあれは私がゲームに負けたからなのだが。
とは言え、元々出していた条件以上の事をさせられた。
その自覚があるのだろう。ものすごい勢いで目が泳いでいる。
「……み、蜜柑食べたいな。甘くて……美味しい蜜柑……早く冬にならないかな……あはは……」
「話の逸らし方強引過ぎじゃない?」
「いいだろ?問題あるか?って……なんで?」
彼が言い終わる前に勢い良く首を縦に振ってやった。
■■■
ダンボール箱を車から取り、よっこらせっと、また階段を上りだす。
そのままなんとなく無言の時間が続き、部屋に荷物を置いて車に戻る。
そして
「……で、なんの話だっけ?」
「喧嘩した時の話してた。多分違うけど」
「何処までも適当だな……特に服装。ホント、どうなの?それ。恥ずかしい」
私はまた顔を赤らめつつ彼をじっと見る。
「嫌なら横にいなけりゃいいだろうに。俺の家の近くだから、どんな格好でもいいよなって先に言ったろ?何でも良いから早く来てって言ったのは誰です?」
「……」
「……」
誰です?ってなんだよ。
そしてなんだよこの間は。
いや、間に関しては私が作ってるんだけど。
ただ、語尾のせいで何て言ったら良いか分からなくなってしまった。
「……す」
「す?」
あーもう!何も出てこない!成るように成れ!!
無駄に綺麗で残念な横顔に誘導されるように、一言。
「好き……?」
「きっしょ」
「しょうがないじゃん!なにも出てこなかったもん!!」
誰が言いたくてそんな事を……と顔をしかめると、彼はニヤリと笑った。
「また俺の勝ちな」
「……あ」
一人で引っ越しって大変だし喋り相手がいないから彼を呼んだのだ! マッシー @orange_non
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