第4話
【11の鐘】
行商人の馬車に相乗りさせてもらったキースは、無事王都「エステリオ」に到着した。
王都に入るには衛兵が見張る門を通る必要があるが、キースが着ているのは魔術学院卒業者のローブだ。止める者はいない。
(ただその格好をするには余りにも小さく可愛いので、別の意味で目立ってはいる)
キースは王都の魔術学院に通っていた為、主要な施設の場所はだいたい把握している。
ましてや、自分がなりたい職業を管理している組織の建物だ。その前までは何度も来た。
寄り道をせずに真っ直ぐ冒険者ギルドを目指す。とにかく冒険者登録を済ませ、速やかにパーティに入り王都を出なければならない。
自分がいないことに気づいた祖母達が最初に探すのは、村から一番近い王都であろう。
祖母は冒険者ギルドの元職員、キャロルは冒険者(正確には冒険者パーティに参加していた神官)であったのだから、今も何かしらの伝手がある可能性も十分考えられる。
キースは冒険者ギルドに到着した。
石造りの二階建ての建物は、見ただけでも堅牢さが伝わってくる。
ウェスタンドアを押し中に入る。
昼前という中途半端な時間なこともあり、ギルド内は閑散としていた。
職員が付いている受付も一箇所しかない。手を止めて談笑している職員もいる。
そんな中に小柄で金髪サラッサラくりくり(略)魔術師のローブを着たキースが入ってきたのだ。当然職員の視線が集中した。
中には(子供が魔術師の仮装している?)とまで思う職員もいた。
キースはその唯一開いている窓口の前で足を止め、目ざとく女性職員の胸に付いた名札を確認し(彼女はパトリシアというそうだ)声をかけた。
「こんにちは!冒険者の登録をお願いしたいのですが」
「あっ、はいっ、新規登録ですねっ? どうぞおかけくださいっ!」
その可愛い見た目と「冒険者の登録」という単語がうまく結びつかず、パトリシアは新人職員でもないのに少々慌てた。
「ではこちらをご記入ください」
引き出しから記入用紙を一枚取り出しキースに渡す。
記入内容は「名前」、「出身地」、「職業(得意技能)」、「年齢」だけである。冒険者証は魔力により本人にヒモ付けされる。これだけ分かっていれば個人の特定は容易だ。
書き終わり用紙を渡す。
パトリシアは
「処理をしてきますので、こちらを読みながら少々お待ちください。」
と、冒険者としての諸注意が書かれた書類を渡し、カウンターの奥へ移動する。
学院の先輩に聞いた話では、登録用の記入用紙を魔導具に通すと、その内容がプレートに刻字され、冒険者証になるという。
パトリシアが戻ってきて、キースに冒険者証を手渡す。
「どうぞ、これがキースさんの冒険者証です。この小さな魔石に魔力を流してください・・・はいこれで大丈夫です。本人にしか使えませんが、無くさないように気を付けてくださいね。端に開いている穴に、鎖を通して首から下げると良いですよ」
と教えてくれたが、キースの頭にはほとんど入っていなかった。
遂に冒険者証を手にした喜びと感激で、感極まっていたのだ。
パトリシアは、先程まではきはきと受け答えしていた少年が、急にぼーっとして目をうるうるさせているのに気が付きまた慌てた。
「キースさん!?キースさん!?大丈夫ですか?どこか具合でも悪いのですか?」
目の前で手を振ってみる。
「・・・あぁ、すいません・・・遂に冒険者になれたんだなと、ちょっと感激してしまいまして」
えへへと頭に手をやりながら、恥ずかしそうに頬を染める。
この場にいたギルド職員全員が
(可愛すぎだろこの生き物)
と心の中で叫んだ。
「先ほどの諸注意の中で何か気になる事はありますか?」
「大丈夫です。事前に聞いていた通りでしたので。」
「もし何かあれば、悩む前に声を掛けてくださいね。」
「分かりました。パトリシアさん、ありがとうございました。これから色々お手数おかけすると思いますが、よろしくお願いします」ニッコリ
ズギュ-ン
パトリシアのハートは完全に撃ち抜かれた。
キースは席を立ち、パーティ募集用の掲示板を見上げ、魔術師の募集がないか確認する。どうやら魔術師は3つのパーティが募集している様だ。
キースはパトリシア(まだ衝撃から立ち直っていない)の前に戻り尋ねる。
「パトリシアさん、この魔術師を募集している3つのパーティは、今王都にいるかわかりますか?」
「は、はいっ?!ええっと、少々お待ちください」
書類をめくり依頼の受理状況を確認する。
「3パーティとも今日の朝依頼を受けていますから、王都にはいないと思いますよ。まだこちらにも来ていませんし・・・」
「そうですか・・・」
依頼を受けて出発した以上、戻ってくるのは夕方以降であろう。まだ昼にもなっていない。ちょっと時間が空きそうだ。
(よし、今のうちに昼食と宿の確保をしてしまおう。ほっとしたのかお腹も空いてきたし。余裕があれば宿で一休みもしたいな)
キースはパトリシアに「4の鐘に合わせてまた来ます」と言い残し、ギルドの外に出て食堂と宿屋を探すべく歩き出した。
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