第2話 「出逢い」

如何やら昨日の電話は私の職場担当の編集長からだったらしい。

朝からこっ酷く怒られた。苛苛する。

何時もより苦い珈琲を口に運び、作業を始めた。


私の唯一の救いは休暇中のSNSだ。

此処なら何だって吐ける。相変わらずな愚痴を吐いて画面を閉じた。


作業中、只只時間だけが過ぎていく。

橙の太陽が反射する硝子に私は嫉妬した。今日は珍しく面倒な事も無く、晩御飯前には家に帰れた。

最近では自炊もせずコンビニで済ませて仕舞う。駄目だなと思い乍ら、スマホを片手におにぎりを咥えた。


と、其処で或る通知に目が止まる。

休暇中に吐いた愚痴に、誰かが反応していた。「仕事と人間関係って辛いですよね…」単純なリプライだったが、私の気持を解ってくれる人がいると云う事が嬉しかった。

私は其のリプライに直ぐに返信した。


それから、其の人とはよく会話をする仲になった。名前も性別も解らない、画面越しの其の人と。

休暇時間になっては、其の人と定期的に話す様に成っていた。

仕事で辛い事が有れば、其の人が理解してくれるから。


残業で疲れ果てた或る夜、帰る支度をしていると、嫌いな先輩に急に話かけられた。表情を濁らせ乍らも何事かと思うと、此の前の飲み会で私を置いて行った事を今更謝りに来たのだった。

然し表現や口調から反省の色は無かった。私も頭にきたのだろう。


我に返ると其処には沢山のプリントが散乱し、機材はデスクの上で横転していた。先輩の顔は吃驚していた。何語かも解らない、我武者羅な一言を先輩に吐いて、私は其の場を去った。


複雑な心境が頭の中で右往左往していた。そんな中、スマホが鳴った。仲良くなったあの人からだった。

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