針と海
ツキミ/月見
第1話 「厳しさ」
──気附いたらリビングの椅子に腰掛けていた。時計の針は八時を指している。職場に行くという使命感から体が動く。何時も通り準備をして、何時も通り玄関の扉を閉めた。
移動感覚の無い儘、職場に着いた。聞き慣れた革靴の音、嫌いな先輩だ。此方へ駆け寄ってくる。
また私を盥廻しに使って、自分だけ樂をする心算だろう。私は存在を消す様に担当の場所へ向かった。
仕事をした感覚が感じられなかった。なのに、体が重い。帰り際、あの先輩に引き止められ、飲み会に誘われた。固く断ったが根負け。仕方なく着いて行った。
呑まされた。周りの雰囲気に飲み込まれるのを気を附け乍ら。気持悪い。吐気が催す。束の間、周りには私だけになっていた。先輩も居ない。またやられた。独人法師のテーブル席に飲み食いした跡とレシートを残して行って仕舞った。ストレスとアルコールで倒れそうに成り乍らも、彼奴等の分のお金を払った。
帰りのタクシーで吐いた。
体が空っぽになった。
運転手に頭を下げた。困った顔を隠す様な苦笑で、私を下ろした。
家に帰宅しても独人。誰も迎えなど来てくれない。電話が掛かって来たが出る気にならず、リビングの椅子に腰掛け、死灰の様に力を抜いた。
辛い。苦しい。
時計の針が休む暇を与えない様に、時刻と私の心を刺した。
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