そして勇者は

城の上を覆っていた黒い雲は晴れていき、星と月が顔を出す。

「ハァハァハァハァ」

息を荒らげながらドサッと祥二は倒れ込む。

結果から言えば祥二は魔王に勝つことができた。

ただ、その代償は大きい。

左腕は二の腕から先がなく、両足も膝から下を失った。

この世界に1人だけ召喚された祥二であるが、1人だけ召喚された事に対する恩恵はある。それは勇者でありながら他のジョブである賢者・聖者・魔法使いの能力を所持しているということだ。戦闘中は失った腕と足を賢者の知恵と魔法使いの膨大な魔力量を持つことで、魔力の義手・義足を作りだし人の限界を超えた動きを可能にし、縦横無尽に動き回り魔王と対峙していた。そして聖者の魔法で自動的に回復もこなしていた。

その魔王は祥二の横で今はその骸を晒している。

「血を流しすぎたな」

誰がいる訳でもないが、祥二は1人そうつぶやく。

四肢欠損を治すにしても魔力が心もとない。

「少し休むか、どうせこんな所に来る奴はいないしな」

人間の都合とはいえ、魔物の大量虐殺をしてきた祥二はふと思う。

ここで休んでいる俺を殺したらそれが次の魔王になるんだろうか?

まぁそれもいいか、魔王を倒した事によって自分は「魔王殺しの英雄」と言う事になるんだろう。

多分、王国の王や王妃は今頃祥二の扱いをどうするべきか頭を悩ませているのだろうか?。異世界召喚物の小説は多く読んできたが、魔王討伐に20年近くもかかっているのは目にした事がない。

多分、召喚した本人達もここまで時間がかかるとは思ってもいなかっただろう。

それもこれもこの大陸が広すぎるのが悪いと祥二は思った。飛行機も電車も車もない世界。移動手段は馬車と馬のみ。

しかも、魔王城とやらはどこにあるのか誰も知らない。

そんな世界を噂話に振り回されながら旅をして来たのだ。時間かかるのも無理ねぇじゃねえか!と1人愚痴をこぼす。

待てよ?。祥二はふと思う。

こんだけ時間かかってるんだから、王様死んでたりしてな。

思わず笑みがこぼれる。

あの王様…ぶくぶく太って不健康そうだったしな。代替わりしててもおかしくねえもんな。それに5年くらい前から王国の使者ってのも自分の様子見に来ないもんな。

そんなどうでもいい事を考えながら祥二は眠りに落ちるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る