子供の戦争4
「二人共、そのだな……。私を挟んで睨み合うのは止めてくれるか」
玲那は何とか声を絞り出した。
時は昼休み。冴と小灯は再び睨み合っている。
昼休み前にも、授業の間に小休憩があったのだが、その時は何事も起きなかった。小灯がぐっと堪えたのだ。おそらく十分しかない小休憩ではホームルームの二の舞いになると思ったのだろう。小灯はこの昼休みに片を付けようと考えたのだ。
「玲那ちゃんは黙って待ってて。今このお邪魔虫を排除するから」
場所は二年二組の教室ではなく、その二つ隣の空き教室だった。普段は英語や数学などのコース別で二つに分かれている授業や、女子更衣室代わりに使われる教室だ。自分達の教室では周りの好奇の目が鬱陶しかったのである。
「北野。北野はこんな風に付きまとわれて満足してるの?たまには一人になる時間も必要だと思わない?」
「玲那ちゃんがボクを見捨てるわけないだろ。馬鹿なこと言うなよ」
「見捨てるとか見捨てないとかそんな話してないでしょ。だいたい友達で見捨てるなんて考えが出てくるのがおかしい」
「君にボクの何がわかるっていうのさ。何も知らないくせに出しゃばらないでくれないかな」
「別に出しゃばってなんかないじゃん。もともと北野と友達なのか知らないけどさ、ここは研究所じゃないんだよ。友達の友達と友達になるくらいの甲斐性見せなよ」
「誰がお前なんかと友達になるもんか。ボクには玲那ちゃんさえいればそれでいいんだから」
冴は小灯に舌を出すと、玲那の腕に飛び付く。しかし玲那はそんな冴をひらりと躱した。予想外の動きをした玲那に、冴はポカンと口を開けて固まる。
「れ、玲那ちゃん……」
「聞け、花木。慕ってくれているのは嬉しいが、貴様は私以外にも友人を作るべきだと思うぞ」
「そんな……」
絶望しきった顔をする冴。そんな冴に、玲那は慌てて捲し立てた。
「私も貴様のことはもちろん良く思っているが、私にばかりかまけていては貴様の人生が勿体無い。もっと周りを見てみてもいいのではないか」
玲那の言葉に小灯がうんうんと頷く。しかし小灯の些細な動きなど冴の目には映っていなかった。冴は半泣きになりながら玲那を見ている。
「私は貴様の幸せを思って言っているんだ。友人を百人作れなどとは言わないが、何人かいた方が日々が明るくなるぞ。そうだ、試しにこの西村と友人になってみるといい。なかなか面白い奴だぞ」
「玲那ちゃんは何にもわかってないよ!」
冴はそう叫ぶと、堪えていた涙をボロボロと溢れさせた。玲那と小灯は思わず顔を見合わせる。
「花……」
冴は出し抜けに踵を返すとそのまま部屋を出て行ってしまった。追うかどうか一瞬悩んだ二人だが、その足は結局動かなかった。
「……どうしたの、あの子?」
「いろいろあったらしくてな」
玲那はため息をついて、すぐ側のイスに雪崩れる様に腰掛けた。
「追いかけなくていいの?」
「座ってから言う奴がいるか」
「えへへ」
小灯は玲那の前の席に腰を下ろした。
「お弁当食べる時間なくなっちゃったね」
小灯が見上げた先にある時計は、昼休みが残り五分であることを示していた。五分あれば弁当くらい食えるがなと、玲那は内心思ったが。
教室前の廊下で数人の男子生徒がふざけ合っている声が聞こえてきた。冴が開け放していったドアから少し冷えた風が入って来て、窓の外へ出て行った。
「北野、私達友達だよね」
「……まぁ」
小灯は嬉しそうにニコッと笑うと、ピョンとイスから立ち上がった。
「探しに行こう、あの子」
振り返って自分を見下ろす小灯に、玲那は無言で答えを返した。誰もいなくなった空き教室に、ヒュルリと風が吹き抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます