でたらめな愛のうた6
「何も逃げることないだろう」
シフォンが車へ戻ると、冴はパーカーのポケットに両手を突っ込んで車にもたれて待っていた。鍵はシフォンが持っているため中に入れなかったのだろう。シフォンがドアのロックを外すと冴は後部座席に乗り込んだ。
「いいんだよ。ボクと蓮太郎君はあれで」
シフォンが運転席に乗るのも待たないで答える冴。
「学費や生活費まで出してもらっていたのだろう。お礼くらいもっとしっかり……」
「だからあれでいいんだよ。部外者が口を出さないでもらえるかな」
シフォンはこっそりとため息をつくと、白衣のポケットからスマートフォンを取り出した。その瞬間冴が声をかけてくる。
「そんなことより、玲那ちゃんに連絡したらどうだい」
「今からするところだ」
勉強をしようとした所に親から勉強しろと言われた時の子供のような気持ちになりながら、シフォンは玲那にメッセージを打った。簡潔な文章を二度読み直し送信ボタンを押す。用済みとなったスマホは再び白衣のポケットに突っ込まれた。
「それにしても、お前達は兄弟みたいだったな」
「ボクと蓮太郎君がかい?どこにも似ている所はないと思うけど」
「性格の悪いところが似ている」
「蓮太郎君はともかく、ボクはいたって純粋で愛嬌のある人間だよ」
憎まれ口を叩く冴を見て、二人は本当に仲が良かったのだなと思った。相手のいない所でその人物の憎まれ口を叩けるのは、二人の間に信頼関係がある証拠だ。どうせ本気で言ってはいないという。
「まぁそういう事にしておこう。仲がいいのは好ましい」
「そうだね。ボクは蓮太郎君という人間が大好きだからね」
冴は小さく笑ってこう付け加えた。
「だから彼が何でも屋の人間だとわかった時も、彼を嫌いになったりはしなかったのさ」
「何か言ったか?」
「君は耳が遠いんだね。その年でその生え際ヤバくない?って言ったのさ」
小馬鹿にしたような冴の態度にシフォンが再び噴火しそうになった時、後部座席のドアが開いて玲那が乗り込んできた。
「しっかりと礼は言えたか?花木」
「玲那ちゃんおかえりー」
「北野様、お帰りなさいませ」
玲那が確実に座ったことを確認し、シフォンは車を走らせる。何でも屋朱雀店の小さな店先はあっという間に見えなくなった。
「玲那ちゃんの方はどうだった?ボクの話題が出たりしたのかい?」
「それはなかったな。案外貴様のことなどさっさと忘れたいと思っているのではないか?」
「雅美ちゃん程優しい子が?ないない」
「一体貴様は荒木の何を知っていると言うんだ……」
呆れ半分で言う玲那の腕にに、冴は「ほとんど知らないけどねっ」と言いながら抱き着いた。
「でもまぁ、ボクは玲那ちゃんが居るなら雅美ちゃんに忘れられたって結構だよ」
ニカッと笑う冴を見て、まだまだ前途多難だったかと玲那はため息をついた。
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