でたらめな愛のうた4




「高い……」

「高いね」

「高いですね」

時計店のショーケースにへばり付く三人。時計店の店員が笑顔を引き攣らせながら見ているが、三人はまるで気がつかないようだ。

「シフォン君、君少しお金貸してよ」

「誰がお前などに。お前に貸すくらいなら自分の物を買うさ」

「けち臭いなー。そんなんだから彼女の一人もできないんだよ」

再びギャーギャー騒ぎ出した二人を横目に、玲那は考え込んだ。

「時計がこんなに高いとは想定外……」

それもそのはず、玲那達が来た店は安物のおもちゃみたいな物ではない、本格的な時計を売っている、いわゆる高級店なのだ。品の良さそうな店員はキチンと制服を着こなしているし、照明も白くて美しい。だがガラスのケースに並べられた時計の方がもっと美しいという、そういう店なのだ。

「これは困ったな。時計がダメなら何か別の案を……」

振り返った玲那が見たのは、取っ組み合いをしている二人と、額に青筋を浮かべた店員だった。

「失礼ですがお客様。店内でそのように騒がれると他のお客様のご迷惑になりますので」

店員は圧倒的な目力で言う。

「どうぞ速やかにおひきとりください」

「「「はい……」」」


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