いったいどこで間違えた?
壮絶な戦いの末、玲那の体内に侵入しメディシンⅡを駆除することになった二人の研究者。その説得は五時間にも及んだが、何とか玲那を納得させることができた。化学教師は最後まで猛反対していたが。
スコーン・タルト博士は荷物の中から懐中電灯のようなものを取り出し、それを簡単に点検した。今から博士の開発したスモールライトで、研究者二人の身体を玲那の体内に入れるまでに縮めるのだ。
「さっさとせぬか。こののろま共め」
「はい!申し訳ございません!」
「今から準備に入ります!」
腕を組み貧乏ゆすりをしている玲那。博士とキプツェルは彼女の機嫌をこれ以上損ねないように、驚くほどキビキビと動いた。
「ふん。とにかく早く終らせろ。私は今日バイトがあるのだ」
「承知いたしております!」
「すぐに終らせますので少しの間だけお静かに願えますか!」
「なんだ、私が五月蝿いとでもいうのか!?」
「滅相もございません!」
「出過ぎた真似を!どうかお許し下さい!」
素早く作業を進めながら、博士は隣のキプツェルにパチパチとアイコンタクトを送る。「おい、キプツェル君、とりあえずさっさと終らせるぞ!」という意思を受信し、キプツェルも「同感であります!」と瞬いた。
着々とスモールライト点火の準備が進む中、玲那がふと呟く。
「そういえば貴様等の名をまだ聞いていなかったな」
その言葉に、博士とキプツェルはしばし手を止めて黙り混んだ。博士は「いや言っただろ……」と思いながらしかしそれは口にせず、再び自己紹介をしようとした。
「あ、はい、わたくしはメルキオール研究所で所長の地位に就いておりますスコー……」
「そっちの白髪」
しかし玲那がそれを遮る。博士はつい名乗りを中断し、「はい?」と間抜けな声を出した。あの博士が自らの名前を言い切らないなどよっぽどのことである。
「貴様の名は今から奴隷ナンバーXだ」
「どっ、奴隷!?」
「……なんだ?何か文句があるのか?」
腰の日本刀に手をかけた玲那が凄む。博士は怒りの形相を一瞬にして目尻の垂れ下がった笑顔に変えた。
「いえいえいえいえ、とても良い名をいただき恐縮です」
玲那は次はキプツェルに目を向ける。
「そっちのハゲは奴隷ナンバーαだ」
「αなんてカッコイイ名前だなあ!嬉しいなあ!」
キプツェルの名誉のために言っておくが、彼はまだ禿げてはいない。
「そして貴様等が妙な真似をせぬよう、私の忠実な部下
であるこの奴隷ナンバーZを見張りに付けることにする」
玲那が顎で化学教師を指すと、博士とキプツェルは彼の方を向いた。
「あ、よろしくお願いします、スコーン・タルトです」
「共に北野様を救いましょう」
「ふん、せいぜい足手まといにならないようにな」
玲那への態度との違いにあっけにとられた二人は、顔を見合わせ再びアイコンタクトでやり取りする。「なんだこいつ果てしなく偉そうだ!」「さっきは私のオートマチック改良型に歯も立たなかったくせに!」「北野の前じゃなかったらボコボコにしてたぞ」という具合だ。
「では、さっき話してた何ちゃらという機械に乗って、さっさと私の治療を済ましてくれ」
玲那の言葉の何ちゃらという部分を、博士が素早く訂正する。
「小世界旅客機です」
「何でもいい。早くしろ」
「では、今からスモールライトで縮みます」
スモールライトの光を当てる範囲に入るように、キプツェルは博士に寄った。彼は化学教師に手招きする。
「あ、Zさん、こちらへ」
「気安く名を呼ぶな。俺のことは先輩と呼べ」
二人の研究者がこめかみに青筋を浮かべるのはお構い無しに、化学教師は玲那へ挨拶を始めた。彼の背後では、逆手に持ったスモールライトを振り上げる博士と、それを押さえ付けるキプツェルがいたのだが、化学教師と玲那にとってはどうでもよいことだった。
「では北野様、奴隷ナンバーZ、行ってまいります」
「うむ。しっかりと務めを果たしてこい」
「はッ!」
化学教師は玲那に敬礼をすると、振り返って研究者二人に言った。
「ほら、さっさと行くぞボンクラども!」
二人の青筋はいっそう色濃さを増した。
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