どうでもいい割に首を突っ込むのね3
「それで、メディシンⅡのデータはどこですか、博士?」
メルキオール研究所の所長室に帰ったキプツェルは、まず始めにそう言った。一歩先に部屋へ足を踏み入れていた博士は、壁際の棚のひとつを指差して答える。
「ああ、多分そっちの棚に……いや、こっちだったかな?」
「掃除くらい定期的にしてくださいよ……」
きれい好きなキプツェルは博士の答えに眉を寄せる。キプツェル・マカロンの部屋なら、探し物が見付からないなんてことはあり得ないのだ。
「いやぁ、もう歳だからなぁ。だいぶ身体の自由がきかなくなってきててなぁ」
キプツェルはその言い訳を「そうですか」と聞き流しながら、「そのくせくだらない薬ばかり作る。なんなら若返り薬でも作ればどうだ、この老いぼれめ」と内心で愚痴った。聞こえなければ何を言っても許されるのだ。
博士がメディシンⅡのデータの場所を完全に忘れていたので、仕方がなく二人で手分けをしてこの汚い部屋の中を探すことになった。
「キプツェル君、そっちにはあったかい?」
「どうやらこっちには無いようですよ」
背後から聞こえた声に、キプツェルは棚をかき回しながら答える。
「そうかぁ。じゃあ次はこっちを探してくれ」
「え?博士がそちらを探しててくれたんじゃ……って、何してるんです?」
キプツェルが振り返った先には、真剣な眼差しでフラスコを振る博士の姿があった。
「いや、ちょっと若返り薬を」
「……博士、死にたいですか?」
「いや、私は若返りたい……て、え?」
「若返る前に殺したらあぁぁぁあぁあ!」
「キプツェル君落ち着いて!」
「死ねッ!死ね死ね死ねえぃッ!」
「ちょっ、あ痛っ!」
激情したキプツェルが研究室のありとあらゆる物をひっくり返してくれたおかげで、メディシンⅡのデータは博士お気に入りの観葉植物の下からひょっこり出てきた。博士は頭のこぶがひとつ増えたが、それに見合うものは得られたのかもしれない。
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