第43話 彼と彼女の待ち合わせ

滝の予想は当たっていた。

斉藤清一郎と谷口雪恵の二人はカナダに居た。

彼女はラスベガスへの直行便は無いのでサンフランシスコ経由で行った。

ラスベガスへは他にシアトル経由、ロスアンゼルス経由で行けるが彼女は日付と時間で選んだ。

何処を経由しても時間は14時間から18時間程掛かりパリまで直行便で行くよりも時間が掛かる。

東京からパリまでは9700キロ・メートルの距離があり約13時間で着くが、東京からラスベガスまでは約9000キロ・メートルの距離と700キロも近いのに乗り継ぎが一回あると14時間から18時間程掛かるのである。

彼女はマッカラン国際空港に着くとタクシーでルクソール・ホテルへ向かった。

彼女は二度目以降、新館を好む様になっていた。

ルクソール・ホテルは1993年に開業し1998年に新館が増築され2007年にはピラミッド館が全面改築されていた。

彼女はピラミッドに泊まるよりもピラミッドを観る方を好み、窓からピラミッドが見下ろせる部屋に泊まる様になった。

彼女がホテルに入りフロントへ向かって歩くと声が掛かった。

彼女が振り向くとエディーが立っていた。

「ミス・ユキエ、お久しぶりです、ご利用ありがとう御座います」

エディーはホテル内で回りの目もあり正式な挨拶で迎えた。

「お久しぶりね、エディー、お元気ですか」

「はい、ありがとう御座います、以前の部屋で宜しいですか、こちらの席でお持ち下さい、チェック・インの手続きは私が行います」

「ありがとう、お願いします」

エディーは彼女からパスポートを預かりフロントへ行きチェック・インをしてくれた。

途中、フロント係がパスポートと彼女を見比べて確認していた。

エディーが彼女が座っているソファーに戻って来て鍵を渡した。

「何時もの部屋です、彼が来られたらツアーに行きますか」

「はい、そのつもりです、又お願い出来ますか」

「勿論です、もうお二人とのツアーは我が家の楽しみな恒例行事です」

「ご家族にお変わりは有りませんか」

「はい、皆、元気です、変化と言えば娘と息子に彼氏と彼女が出来た事でしょうか」

「その人たちも一緒に行きますか」

「そのお言葉は嬉しいのですが、何時まで持つか解りませんので、止めて起きましょう」

「彼が着いたら連絡します」

「はい、お待ちしています、では、旅行を楽しんで下さい」

「ありがとう」

エディーがコンシェルジュの持ち場に戻って行った。

彼女がソファーから立ち上がり荷物を持つポーターに先導されて部屋へと向かった。

彼女は部屋に入りポーターにチップを渡して冷蔵庫からオレンジ・ジュースの瓶を持ってベランダに出てピラミッド館を見下ろした。


彼は東京から約13時間掛けてイタリアへ飛んだ。

アリタリア航空を使いマルペンサ空港に着いた彼はミラノ中央駅へ向かい鉄道イタロに乗った。

彼が乗った列車は約3時間程でベネチアのサンタルチア駅に着いた。

彼が予約したホテルはサンマルコ広場の近くだった。

彼は駅からホテルまでを水上バス・ヴァポットでは無く水上タクシーを使った。

ローマ広場からサンマルコ広場までは約60ユーロとされていたが彼は100ユーロを払いお釣りをチップとして渡した。

船を降りた彼はトランクを転がしながらサンマルコ広場に入り教会の写真を撮ってピアッツァ・サン・マルコ・ホテルに辿り着いた。

彼は二人で旅行を決めた時に何方が直接ベガスに行き、何方が一旦ヨーロッパへ行き遠回りしてベガスに行くかを彼女に選ばせた。

「イタリア、パリに行って見たいしエジプトのピラミッドも見てみたいわ、でも、私は貴方程の遺跡好きじゃ無いからベガスで待っているわ、貴方は遺跡を楽しんで来て下さいな」

彼女の勧めにより彼はイタリアを選び来ていた。

東京の家を出てから既に20時間以上経ち翌日になっていた。

飛行機はビジネス・クラスで機内食も満足出来る物であったが所詮は機内食、食べられると言うだけの味で量も足りず空腹を感じながらシャワーを浴びた後、ベランダで一服して直ぐにベッドで眠りに着いた。


その頃、ラスベガスの彼女はオプショナル・ツアーに参加していた。

一度目はグランド・キャニオンへ一日ツアー、二度目はアンテロープ・キャニオンへ一日ツアーに参加した。

二つのツアー共に昼食付きで10時間程掛かるツアーだった。

グランド・キャニオンはとても雄大で下まで降りたい欲求に駆られたがツアーなので時間が無く、今度、下まで降りる事を彼に頼んでみようと思った。

アンテロープ・キャニオンは岩の色合いが見事で上の隙間から差し込む光も見事だった。

只、困った事に女性の一人旅、それも日本人女性の一人旅は珍しいらしく、二つのツアーで一人旅、二人旅の男性に桎梏声を掛けられ、危なく人気の無い処に連れ込まれそうになったが目立たない様にお腹に正拳と蹴りを入れて難を逃れた。

ツアーが終わるまで男たちは大人しくしていた。

ナイフならまだ良いが銃を持っていたらと思うとぞっとした。

ツアーの帰りはホテルを知られない様に気を付けいろいろなホテルを回って尾行されない様にした。


彼はベネチアで一泊して翌日はベネチア観光をし夕方、イタロでローマへ向かった。

彼がベネチアで巡ったのは勿論、ホテルの目の前のサンマルコ広場が最初だった。

サンマルコ広場には見所が数多くある。

サンマルコ大聖堂、ドゥカーレ宮殿、鐘楼などである。

大聖堂と呼ばれるものは内部に司教が説教をする司教座があるかである宗派が多い。

サンマルコは建設当時は司教座が無く寺院と呼ばれていて、今でもサンマルコ寺院と呼ばれる事の方が多い。

彼はサンマルコ寺院を正面の遠くから眺め近くから眺め最後に階段を登って屋上に登りベネチアの眺望を楽しんだ。

次に彼は鐘楼に登った。

鐘楼にはエレベーターが設置されていて楽して上に登る事が出来た。

サンマルコ寺院からベネチアの眺望を楽しんだが鐘楼の上から見えた眺望はもっと高い処からでとても素晴らしいものだった。

彼は次にドゥカーレ宮殿に行き、まず外を巡り写真を数枚撮った。

宮殿内に入った彼は黄金階段、四つの扉の間などの内装を鑑賞し展示されている絵画も鑑賞した。

現在、宮殿は美術館となっておりパオロ・ヴェロネーゼ作の「老いと若さ」「ヴェネツィア礼賛」「レバントの海賊の勝利を感謝するヴェニエル総督」の三点とティンレット作の「ヴェネツィア称揚」「天国」などの絵画を鑑賞して過ごした。

二人の画家はルネサンス後期の画家である。

宮殿を出た彼はレアルト橋へ向かう途中のイタリアン・レストランで昼食を取った。

彼が食べたのはイカスミ・パスタで食後に彼には珍しく濃い珈琲を飲んだ。

レストランを出た彼はリアルト橋に向かった。

狭い道路をほぼ真っすぐに進んで運河に出た。

途中で教会を見かけたが時間が無いので素通りした。

運河はベネチアで一番大きな運河でカナル・グランデと呼ばれ、この運河に架かる四つの橋の一つがリアルト橋で別名、白い巨象と呼ばれているらしい。

彼が狭い道路を出て運河に突き当たり右にリアルト橋が見えた。

橋には多くの人が立ち止まり景色を眺めていたり歩いたりしていた。

彼は記念に写真を何枚か撮りながら橋に近づいて行った。

彼は橋の中央に行き運河の上流と下流の眺めを楽しみ写真も撮った。

余りの景観に彼はビデオも撮った。

彼はリアルト橋からホテルへ戻りボート・タクシーを呼び預けてあったトランクを転がしサンピエトロ広場を横切り運河に着くと水上タクシーに乗りサンタルチア駅に向かった。

暫く待って列車に乗りミラノへ向かった。

ミラノでタクシーに乗り換えマルペンサ空港へ向かった。

2時間待ち厳しい空港検査を受け30分待ち漸く飛行機に乗ったが15分待たされ飛び上がった。

向かった先はニューヨークでそこからロスアンゼルスに飛び飛行機を再度乗り継ぎラスベガスに着いた。

乗り継ぎ時間も入れてベネチアのホテルを出て20時間以上経っていた。

空港に着いた彼は今では珍しい公衆電話からエディーに連絡し彼女の携帯番号を聞いた。

空港の携帯電話会社でプリペイド携帯を買って彼女に連絡した。

「もしもし、僕です、お待たせしました。今ベガスの空港に着きました、ホテルへ向かいます」

「丁度、私も今ホテルに戻った処です、待っています、何時もの部屋です」

「解りました、では、後程」

「では、では」

彼はタクシー待ちの列に並びタクシーに乗りルクソール・ホテルへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

孤高の戦士 イミドス誠一 @imidosjp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ