第41話 滝の訪問
警視庁の受付から麻生に電話が入った。
「こちらは受付ですが、麻生警視に面会人です、名前は滝様です」
「・・・お通しして下さい、会議室は何番が空いていますか」
「5番です、お通しします、同行人を付けますか」
「必要ありません、彼に会議室の場所を教えて下さい」
麻生は受話器を置くと暫く頬杖を着いて考え込んだ。
暫くして麻生は立ち上がると部下たちに言った。
「第5会議室に行きます、後はよろしく、あぁ、珈琲二つを手配して下さい」
「はい」
聞こえた者たち全員が返事を返した。
麻生は専用の部屋を好まず、大部屋の窓際の壁を背に机を置いていた。
麻生が立ち去ると直ぐに秘書が珈琲の準備に向かった。
麻生が第5会議室に入ると既に滝がソファーに座っていた。
「思っていたよりも早かったわね、でも、此処に来るとは思わなかったわ」
「私も考えての行動では有りません、私自身も驚いています」
「そうでしょうね、貴方らしく無い行いですよ」
「興味本位ですかね、やはり、外へ出ましょう、此処は来客室にもカメラがある、流石です」
「幾つありますか、私は二つと思っていますが」
「こう一つ計三つですね、死角を無くする為に二個、見つかる事を予想して二個でもう一つが本物でしょうね」
「そうですか、何処にとは聞きません、では外に出ましょう」
その時、秘書が珈琲を持ってドアをノックした。
「御免なさい、外に出ます」
秘書はドアを開けずに去って行った。
二人は肩を並べて庁舎を出た。
鍛え上げられた身体を持つ姿勢の良い歩みの二人は町を歩いて居ても目立つ存在だった。
特に女性、麻生の美貌は人々の目を引いていた。
「良い女性も考えものですね、目立って隠れ様が無い」
「それって誉め言葉なのかしら」
「そうですよ」
「ありがとう」
「しかし、警察幹部は外出時ね護衛とカメラが付いて来るのですね」
「そうなのよ、警護しているのか、監視しているのかは判断できないわね」
「はっきり言いますね」
滝は事前に調べてあったのか、一件目の喫茶店に入るとそのまま裏口から出た、次にビルに入るとまた裏口から出て直ぐに隣のビルに入ると内部の商店の人込みを通り別の出口から出ると暫く歩いて喫茶店に入った。
「さてと、私はオレンジ・ジュースにしますが貴方は何にしますか」
「アイス珈琲にします」
滝がスタッフに注文した。
二人は無言で注文した物が届くのを待った。
二人は一口付けると滝が口火を切った。
「依頼を受けるしか無い様です」
「ありがとう、早速だけど基地にする事務所を確保して下さい、都内に3部屋借りて下さい、二つは盗聴防止と倉庫として使います、要員は最大7名を予定しています。資金はこれを使って下さい、名義は新たに作ったダミー会社です、この組織の存在を知る者は私の組織では4名だけです」
「貴方と上司二人と情報処理係ですね」
「そうです」
「では、私よりも適任者を教えて下さい」
「もう、調べたのでしょう」
「はい、調べました、動機はぴったり合いますが謎が沢山ありますね」
「解ります、軍隊経験も無ければ、格闘技の経験も無い、日本では射撃などもっての外」
「いや、俺の調べた処では格闘技の経験はある様だ、海外旅行も多いし長期旅行も何度もあった」
「格闘技の経験があるの」
「あぁ、名前を偽っていたがね」
「偽名でね~、それで何の格闘技だったの」
「凄いぜ、空手、柔道、テコンドー、合気道、剣道、居合って処かね、今の処ではね」
「腕前はどうなの、齧っただけじゃないの」
「空手で言えば、あの実践空手の二段に勝つ腕前らしい」
「らしいとはどう言う事なの」
「どうも、それ以上の相手との試合は手抜きしているらしい」
「以上で手抜きとは面白いわね」
「俺も不思議に思ったな、弱い奴には手加減なら解るが、何でも二段までの奴との試合はあっさり勝つが三段の奴との試合では攻撃の機会が明らかにあるが攻撃しなかったらしい、面白い奴だと思わないかい」
「面白いわね・・・でも理由は解った様な気がするわね、三段以上になると雑誌に名前が乗るし全国に名前が知れ渡る・・・」
「なる程なぁ~、考えたものだ」
「私が調べた処では長期の海外旅行も無かったけど」
「偽造パスポートを使っていたよ、長期の時だけだがね」
「それで行先は何処だったの」
「毎回、ハワイさ、だが、其処からが消えちまうのさ」
「別の偽造パスポートと言う訳ね」
「その様だ」
「銃の訓練かしらね」
「多分な、だが、それだけじゃ無いだろうなぁ~、実践の経験もしたんじゃないかな」
「貴方の様に外人部隊じゃ無いわね、長期の言っても精々一か月三カ月未満でしょ」
「あぁ、大体一か月以内だった」
「実践は何処でかしら、したのならだけど」
「確実にしている、間違いは無い、紙の的の射撃と人間相手は心構えが全く違うからな」
「なる程、経験者の言葉だから信じるわ、何処でかしらね」
「それでいろいろと調べて見たが、彼の旅行の間に何故か世界中のギャングが大勢殺されているんだ」
「世界中のなの」
「あぁ~、驚く事にアメリカは勿論、メキシコ、コロンビアにロシアまであるんだぜ」
「何人なの」
「俺が確実だと思うのは150人だ、だか、実際はその3倍はいると思うな」
「凄い数ね」
「それ位の非情さを育てたのさ、あの躊躇いの無い手口を育てたのさ」
「そんな獣になった男が普通のサラリーマン、其れもデスク・ワークの仕事とは・・・」
「あぁ、精神も相当に鍛えたんだろうな」
「どうやって」
「俺には解らん、戦国時代なら山籠もりと言いたい処だがね」
「あぁ、それはあるかもよ、彼が元の職場に復帰して暫くして山にキャンプへ行く様になった様なのよ」
「ふ~ん、この現代に山修行かぁ~、やるものだぜ」
「銃の腕はどうなの」
「グアムの屋外射撃場は一軒だけなんだが、そこの奴にしこたま酒を飲ませてやっと聞けたが店の一番のスナイパーは俺になっているが実はその上が二人いたんだよ」
「一人じゃないの・・・まさかもあの時に見た、あの若い女なの」
「どうもそうらしいな」
「あの女性は極普通の家庭の其れも可成りのお嬢様なのよ」
「ああ、その女の長距離射撃の腕前はプロ級の上らしいぜ」
「となると、射撃練習はグアムだけじゃ無いわね」
「だろうね、何百、何千と練習しただろうな」
「どこでだろう、予想は付くの」
「利用する積りか」
「当然でしょ」
「しかし、本当に奴なのかね~」
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