第37話 麻生についての会話

「バーにあの女性刑事が来た事に気が付きましたか」

「はい、貴方と目が合いましたね。一瞬でしたが、貴方がほほ笑んだからでしょうか、彼女は無表情だったようですが」

二人はバーを出た後、タクシーで有名ホテルに入った。

「ええ、私には動揺している様に感じました、何にかは勿論解りませんが・・・実は彼女は今日、警部から警視に昇進したのです」

「まぁ、女性で警部もなるのは大変なのでしょう、それなのにその上の警視になったの」

「あれ、君は警察の役職を知っているのですか」

「前回、彼女に会ってから少しネットで調べました、込み入っていて解り難いですね」

「そうですね、それと彼女は特別中の特別なのですよ」

「えぇ~何がですか」

「彼女は司法試験に受かっているのです、検察官、裁判官、弁護士に成れるのですよ」

「そちらの方が給与が良いでしょ」

「勿論てす、ですが今日からは警視ですから昇給ですけどね」

「それでも彼女の様な美人なら弁護士なら大金持ちに成れるでしょうにね」

「弁護士は美貌で依頼者が増える訳ではありませんよ、それは目立ちますから最初は人が集まるでしょうが、やはり実績ですね、敗訴ばかりではお客は減ります、其れよりも大企業の顧問弁護士になる方が良いでしょうね、多分、年収で億を超えるでしょうね、これも実績によりますが彼女は実績も積むでしょうね」

「やり手の弁護士と言う奴ですね」

「ですから司法資格を持つ警察官は居ませんからね、特別なのです」

「大丈夫ですか、そんな人に目を付けられて・・・」

「何の事でしょうか、私は犯罪者ではありませんので、警察を恐れる事は何もありません」

「はい、はい、気を付けて下さいね」

「私は大人しい、気の弱い、只のサラリーマンですよ」

「はい、はい、貴方が大人しい人なら私は赤子です」

その時、彼の携帯からメール通知が鳴った。

彼は携帯を暫く見ていた後で言った。

「あの女性警視殿があのバーの外で襲われた様です」

「あのバーの外って私達がまだ中にいる時ですよ」

「そうなりますね、それを中の人達に気付かれる事無く始末したと言う訳です」

「始末って・・・」

「まさか、警察の人ですよ、パトカーを呼んで連れて行った様です、我々も気が付かなかったと言う事はサイレンを鳴らさずにと言う事ですね」

「凄い女刑事ですね」

「流石に警視に昇進する人です、しかし警察にも見る目のある人はいるのですね、安心しました」

「安心って・・・」

「何処のどんな組織にも派閥や何かが有って有能な人が昇進する事は限られます、と言うより稀な事です、我々の会社でも思い当たるでしょう」

「そうですね、大体、貴方が只の主任ですからね、殆どのアプリと資料は貴方が制作か監修か修正をしていますからね」

「まぁ、いろいろな悪い事もしていますけどね」

「二人で秘密のメールもしていますしね」

「本当の事をそろそろ言う時が来た様ですね・・・私は大金持ちです、いろいろな悪どい事をしている会社や組織から少しづつお金を銀行から移して世界中の銀行に隠してあります」

「そうじゃ無いかとは思っていました、貴方の能力なら簡単な事ですものね、因みに総額は」

「億の単位を超えています」

「まあ、そうでしょうね、世界中には悪人がいっぱいいますからね、慈善活動には幾つの名前を持っているのですか」

「無記名です、匿名です」

「でも、その様な奇特な人がいればニュースに、大ニュースに成りそうなものですけど聞いた事が有りません」

「それが寄付の条件になっているのです、漏れれば打ち切られます」

「成程、高額な一回では無く月々ですか」

「半年に一回です」

「それで、幾つの団体にですか」

「120位ですね」

「中には着服する人もいたのでは無いの」

「良くお解りですね」

「そして、そんな人は・・・そんな人の口座からお金が消える・・・消え続けるのね」

「素晴らしい、消えるでは無く、消え続けるとまで気付く何て」

「でも、そう言う人は現金主義に変わるでしょ」

「その通りです、でもその様な不正をする人は他にも不正をしています」

「その不正の証拠が警察に届く訳ですね」

「その通りです」

「貴方の存在に気が付いた捜査機関は無いの」

「勿論、有りますよ、でも、犯罪ではありませんので重要度は高くありません、何処かの金持ちの道楽とでも考えている様です、勿論、高度なスキルを持ったハッカーの存在は気にはしているようですが・・・」

「それで何処かの機関から捜査協力の依頼があったのね」

「はい、幾つもの機関から何度も有りました」

「受けたのですか」

「幾つかは」

「罠、貴方を捕まえる為の罠だとは考え無かったのですか」

「勿論、考えましたし罠でも有りましたよ」

「罠でも・・・一石二鳥を考えて依頼してきたのね」

「やはり貴方は冴えた頭の持ち主ですね」

「罠には引っかから無いのですか」

「今、私はここにいますよ」

「そうですよね」

「貴方は不思議な人だ、冴えているのか、天然ですね」

「ボケって事ですか」

「可愛いですよ、私は本当の馬鹿は嫌いですがね」

「それで罠を逃れる手法は」

「いろいろ使いましたが、一番は世界中を追い掛けさせて最終発信地が探している自分の機械だった時でしょうね、その部屋のカメラをハッキングしていたので大いに笑わせて頂きました、後でお見せしましょうか」

「残して有るのですか、証拠に成りますよ」

「大丈夫ですよ、パスワードは開けませんし、画像ファイルとは気が付きません」

「画像ファイルは容量が大きく成るでしょう」

「最近のカメラは画素数が高くファイルが大きく成ります、30分の高解像度の風景画像に2分の画像を裏に埋め込んでも解りませんよ」

「貴方は本当に頭が良いですね、それでいて腕力も射撃も凄いなんて・・・」

「あの警視の話に戻しますが、彼女は新宿の事件を当初は滝と言う外人部隊経験のある組織暴力団の用心棒、暗殺者と思っていた様ですが、違うと判断変更しました、それで他を探している内に私に行き着いた様です、貴方も何時もの様に行動する事に留意して下さい」

「私も監視されているのですか」

「今の処、私の彼女の位置付けでしょう、貴方は私の正体を知っているとは思ってはいません」

「・・・貴方の正体って何ですか、只の陰気なプログラマーですよね」

彼女は無邪気な顔で答えた。

「女性は生まれながらの役者ですね」

「私と女刑事の騙し合いですね、面白しですね、楽しみです」

「私もその場にいて見てみたいですね」

「あのバーで実現するかも・・・ですね」

「あり得ますね、大いにあり得ます」

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