第32話 回想-キャンプ

清一郎はワインを一口飲み口を湿らせ話を続けた。


アレックスは最初は常歩(なみあし)から始め時々後を振り返っては二人の様子を確認した。

アレックスは何度か確認すると常歩から速歩(はやあし)に速度を上げ又二人の様子を確認した。

だが、それも休憩までの事でその後は常歩、速歩と続け平地では時々駈歩(かけあし)を混ぜた。

馬の歩みは常歩(なみあし)(110m/分)、速歩(はやあし)(220m/分)、駈歩(かけあし)(340m/分)、襲歩(しゅうほ)(1150m/分)と呼ばれる。

アレックスは二人の様子を見ながらより早く難しい乗り方へ移行して行ったのだ。

馬4頭と車一台が草原や山道を駆け巡った。

先頭を行くアレックスが前方に見えた大きな岩山の右に迂回した。

岩山は幅300m高さが50m位あった。

岩山を迂回したアレックスはそのまた前方1キロ程の大木の下で馬を止めた。

「ここが今夜の野営地よ」

追いついた三人に言った。

その後に車が到着し両親が降り立った。

「今夜はここに泊まるのか・・・良い処だね」

「そうね、良い処ね」

「男性陣は野営の準備と珈琲をお願いね・・・ママちょっと付き合って」

アレックスは男性陣が荷物を車から降ろすのを待って母を連れてSUVで何処かへ出かけて行った。

椅子とテーブルを組み立てゲストの二人を座らせた。

お湯が直ぐに沸きゲストの二人に珈琲が出された。

ゲストの二人が珈琲を飲んでいる間に次々に野営の準備がされた。

この家族は野営に非常に慣れていて行動に素都が無かった。

そうこうしている内に出かけていた女性二人が戻って来た。

「二人は射撃がしたいと言っていたでしょう・・・長距離はどう」

「短距離よりは長距離が希望です」

「良かった・・・あの岩山の麓に標的を設置して来たの・・・どう撃ってみる~」

「50口径・・・12.7ミリですか・・・それとも7.62ミリ ?」

「両方、バレットM82とウインチェスターM70よ」

「OK、どちらから」

「距離はどれ位だと思いますか」

「君はどれ位だと思う」

清一郎が雪恵に尋ねた。

「そうね~1キロ位かしら、どう」

「そうだなぁ、1200メートル・・・かな」

「残念、惜しい1175メートルよ」

アレックスが距離計付きの双眼鏡を覗きながら答えた。


エディー、エマとアンディーの三人は夕食の準備をしていた。

アレックスが車から大きな銃を両腕に抱えて持って来た、バレットM82だった。

余りの大きさに初めて見る雪恵は目を丸くしていた。

「そうよね、普通の人は驚くわよね、でも音はもっと凄いんだから・・・ここは屋外だからそれ程でもないけど屋内だったら大変よ」

アレックスは話ながら銃を清一郎に渡した。

軽々と持った清一郎が雪恵に言った。

「君も持ってみるかい」

「いいえ、今は止めておくわ」

清一郎は目でアレックスに確認し岩山に銃身を向けて地面に置いた。

アレックスが肩に下げたナップサックから銃弾の箱を清一郎に渡した。

「何か注意点はありますか、改造はしてありますか」

「いいえ、標準のままよ・・・あたなはこの銃の経験があるようね」

清一郎は腹ばいになり右肩に銃床を付け左手で銃床のグリップを掴み、腕組みをする様に構えた。

「ダディー~、マミ~、アンディー、イチローがライフルを撃つわよ~」

アレックスの掛け声に三人が集まって来た。

アレックスが後ろに下がらせてしゃがませた雪恵の周りに三人が座った。

アレックスは清一郎の隣に双眼鏡を持って腹ばいになった、スポッター役だ。

「幸い風は強くない様だ」

「そうね視界も良いわ」

銃の感触を確かめた清一郎は弾倉に口径12.7mm、長さ99mmの大きな弾薬を三発装填した。

再度、銃を身体に馴染ませた。

「撃ちます」

暫くして「ズドーン」と言う凄まじい音が響き薬莢が飛んだ。

「3メートル右45度上に着弾」

アレックスの声が聞こえた。

再度「ズドーン」と音が響いた。

「50センチ左下45度に着弾」

再度「ズドーン」と音が響いた。

「パーフェクト、ブラボー、凄い」

「アレックス、ど真ん中か」

「そう・・・ど真ん中よ、ダディー」

そう答えながらアレックスは父親に双眼鏡を渡した。

「おぉ~凄い・・・なぁ~」

双眼鏡が次々に渡され皆が驚き清一郎を誉めた。

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