第27話 回想(二人の北米-ルクソール・ホテル)

清一郎は会社にヨーロッパ周遊に行くと言って申請し特別休暇を貰った、一カ月だった。

雪恵はアメリカ周遊に行くと言って申請し特別休暇を取った、同じく一カ月だった。

二人の勤める会社は外資系なので許される事だった。

清一郎はパリへ飛びパリからニューヨークを経由しロサンゼルスへ行った。

雪恵はロサンゼルスへ直行していた。

ラスベガスのピラミッドの形で有名なホテル「ルクソール」に泊まっていた雪恵に清一郎から電話が掛かって来た。

「お待たせしました、今、着きました」

「いいえ、お疲れ様でした」

「今、どこの部屋ですか」

「何処って・・・ルクソール・ホテルですけど」

「ええ、解っています、ホテルの東塔、西棟、ピラミッド塔のどれですか」

「あぁ、東塔です、ええと部屋は・・・」

「今、直ぐにチェック・アウトして下さい」

清一郎が部屋番号を言おうとする雪恵を遮った。

「えぇ、ホテルを出るの~、変えるの~」

「いいえ、ピラミッド塔に泊まります・・・御嫌ですか」

「まぁ~とんでも無い、直ぐに準備して降りて行きます、嬉しい、待ってて下さいね」

「はい」

清一郎は「早いと言っても・・・」と予想しフロアーの椅子にゆったりと座り待ちの態勢になった。

暫くすると清一郎の電話が鳴った。

「何処ですか・・・あぁ、見つけました」

勿論、雪恵からだった。

清一郎が見渡すと手ぶらの雪恵が近づいて来た。

立ち上がろうとする清一郎に走り込んで来た雪恵が膝の上に飛び乗った。

「あぁ~会いたかった」

言葉を返そうとする清一郎の口を雪恵の口が塞いだ。

暫く続けた雪恵が顔を離して言った。

「考えてみると日本では会社が一緒で休みの日は一緒だから毎日一緒だったのね・・・会えない時間がこんなに長いのは辛かったわ・・・寂しか・・・っ・・・た」

「ありがとう」

「貴方は平気だったの~詰まんない・・・わ、私だけ???」

「僕は男だから、それを口や態度に出してはいけないと言われて育ったらね」

「そんなの古いわ」

「そうさ僕は君より相当に年寄りだからね・・・荷物は運んで貰うのかい」

「そう、チェック・インの時に前の部屋番号を言えば良いそうよ」

「良く気が付いたね・・・偉い偉い」


清一郎はホテルの受付に着くとポケットから財布を出し中から黒いカードを出し英語で最上級の部屋を要求した。


最上階の15階の部屋に入ると正面にピラミッドの形に沿った斜めの窓が見えた。

清一郎がボーイにチップを渡し「イチゴ」と「シャンパン」を頼み何かを言った。

「気に入ったかい」

「ええ、とても」

「正直に言うと・・・君の夢を壊す様だがこのピラミッド塔よりも君が居たタワーの方が新しいから部屋の料金が高いんだ」

「へぇー、でもこんな部屋は始めてだから嬉しいわ・・・ところでイチゴとシャンパン・・・映画みたいね」

ノックの音が聞こえ、ドアを開けると三人の男性と二人の女性が居た。

「ご婦人の荷物をお持ちしました、仕舞っても宜しいですか」

中年の男が尋ね、許可を得られると他の者たちに指示し自己紹介した。

勿論、イチゴとシャンパンも用意されていた。

「私は当ホテルのコンシェルジュのエディーです、ツアーを幾つかご希望とお聞きしました」

「どうぞ、座って下さい」

「ありがとうございます」

三人がテーブルを挟んで座り、隣の部屋では彼女と彼の荷物が解かれクローゼットに仕舞われていた。

「まずはヘリで周辺を回りたい、次に馬で一泊のキャンプがしたい、次にグランド・キャニオン、アンテロープ・キャニオンへも行きたい・・・私は行った事があります、今回は彼女の為です、豪勢にしたいのでご紹介下さい」

「全て可能です、ヘリは30分です、グランドキャニオン&モニュメントバレー&アンテロープ&セドナ2泊3日ツアーが約800ドルで可能です」

「料金は気にしないで下さい、ヘリはツアー・コースでは無く1時間のチャーターでお願いします、

グランドキャニオン&モニュメントバレー&アンテロープ&セドナの全て入っているのは気に入りましたがこれもツアーでは無くチャーターでお願いします、ガイドはドライバーと別で構いません、2泊3日では無く4泊5日に変更しその二人も我々と同じホテルに泊まって下さい、勿論、料金は私が出します、彼らの食事も我々と一緒でお願いします・・・部屋は全て最上級でお願いします、勿論、我々二人だけです、同行者は一人一人別でもいいです・・・可能ですか」

「可能です、業者は大喜びでしょう」

「今回の一番の目的はこちらの女性を喜び・楽しんで貰う事です、幾ら掛かって構いません、私が言った事以外に何か彼女が喜ぶと思うものがあれば何でも入れて下さい」

「素晴らしい、貴方は倖せですね」

コンシェルジュが驚いている雪恵に声を掛けた。

「あぁ、それとベガスに射撃場はありますか、その小旅行で射撃は可能ですか」

「くぅー、失礼いたしました・・・実は業者のオーナーは私の妻で、ガイドです、ヘリのパイロットは私の息子です、ツアーの運転手は娘です、そしてその娘は昨年のスナイパー部門の全米チャンピオンなのです・・・彼らは大喜びします」

「それは素晴らしい、そうだ、貴方が休めるなら一緒に行きませんか、ヘリの息子さんも一緒にいきましょう、勿論、ガイドとして料金はお支払い致します」

「でも、私は何のガイドも出来ません・・・が」

「アメリカ文化の説明・・・ガイドは出来るでしょう、違いますか」

「出来ます・・・喜んでお引き受けします」

「ホテルの許可は要らないのですか」

「大丈夫です、実は休暇が溜まっていまして、休め、休めと言われ続けているのです」

「ありがとう、私の為に貯めて置いてくれたのですね」

清一郎はそう言って片目を瞑った。

「大変失礼ですが、貴方は日本の方とは思えない、勿論、アメリカ人とも違う、残念ですが」

「良い方に違うと良いのですが」

「勿論です、それでヘリと旅行は何時からにしますか」

「急な事ですから、そちらに合わせます・・・が希望はヘリは明日、旅行は明後日、時間は朝の10時です、いかがですか、電話番号をお知らせしますので時々状況をお知らせ下さい」

「畏まりました、失礼したします」

「あぁ、ちょっと待って」

清一郎はポケットから100ドル札を何枚か出して渡した。

「皆さんで」

と言ってエディーに渡した。

「貴方と言う方はアメリカ人よりアメリカ人らしい、勿論、誉め言葉です、失礼しました」

皆が満面の笑みで「サンキュー・ベリー・マッチ」と言って部屋を出て行った。

「・・・・・・・」

「雪恵さん、どうしましたか」

「貴方って・・・」

「はい」

「私は・・・私は・・・倖せ者です」

雪恵が清一郎の胸に飛び込んで行った。


その夜、二人は歩いて「ベラージオ・ホテル」の噴水ショーを見に行った。

雪恵は立ってショーを見るのだろう・・・と思っていたが、何と向かいのエッフェル・レストランで食事をしながら観る事が出来た。

「何時、ショーを見る事に決めたの、ずっと前に予約してあったの」

「いいや、今日だよ」

「ええぇ、どうして予約が取れるの、こんなに人気があるのに、それもこんなに良い席の」

「あぁ、カード会社に連絡すると大体の無理は通るんだ」

「あぁ~、あのブラック・カードね、成程、凄いカードね、聞いても良いーあのカードの条件は??」

「資産証明だよ」

「だ・か・ら・幾らなの」

「だ・か・ら・ 資産証明だよ」

「はぁ~いいわ、私の彼氏は大金持ちって事ね」

二人はレストランで食事をした後、道を渡りビアホールでビールを飲みながら再度の噴水ショーを楽しんだ。

「ショーってこんなに回数が多いの」

「季節にもよるけど昼間は30分に一回、夜は15分に一回、26曲ある中からランダムに一曲が選ばれその曲に合わせて噴水が出る・・・らしいよ」

「へぇー詳しいのね、他には」

「そうだな、ホテルは北イタリアのコモ湖地方をイメージしておりホテルの噴水プールもコモ湖と言うプールは一周600mで一回のショーは曲により3分から5分・・・と言うのは。」

「本当に詳しいのね」

「正直に言うと、君に説明する為に事前に調べて覚えたんだ」

「まぁ~、ありがとう」

雪恵は礼を言って軽く口づけをした。

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