第26話 清一郎と雪恵の対応会議

『君はグアムの事件現場に日本の警察が来ていたのを覚えていますか』

『はい』

二人は清一郎が作成した部内限定の二人だけのメールソフトで交信した。

『指揮官らしい女性を覚えていますか』

『はい、お綺麗な方でした、少しきつそうでしたが』

『先程、会議室に居た人ですよ』

『はい、雰囲気はかなり違いましたけど・・・優しい感じでした』

『えぇー、我々がグアムに居た事を指摘しましたよ』

『えぇ??? あんなに人が居たのにですか・・・信じられません』

『えぇ、私も少し驚きました・・・ですが肯定はしていません』

『今晩、会うのを止めますか』

『向こうは確信していますから気にする事はありません・・・それに向こうの動きも知りたいので何時もの様に自然にしましょう』

『はい』

『では、今晩』

『はい、では、では』


何時ものマホガニーのカウンターの一番奥の席で二人は並んで座っていた。

「清一郎さん、大丈夫ですか」

「何の事ですか」

「二人の事です」

「会社に知られたら・・・て事ですか」

雪恵が頷いた。

「別に私は気にしていません、私が辞めれば良い事です、只、貴方に悪い噂が立つのでは・・・と心配はありますが」

「えぇー清一郎さんが御辞めになるのですか・・・私が辞めていいのですが」

「私は次を探すのは簡単ですから・・・それに貴方の家はお金持ちの様ですが私も貴方のお家以上のお金持ちですから・・・実は働く必要もないのです」

「そんなにですか・・・お金に不自由では無いとは思っていました、二人の旅費など全て清一郎さんが出していましたので・・・それにあのカードを持てる位ですものね」

清一郎は秘密は無いと言いながら組織の口座からお金を頂いた事を口にしなかった。

「我々を動揺させて何か普段違う事をする・・・墓穴を掘る事を待っているとすれば、これまでと同じ生活をする事が一番、向こうに意図が無いのであれば、これまでと同じ・・・どちらにしてもこれまで同じです」

「・・・成程、うん・・・そうですね、これまでと同じで良いのですね、良かった、私はこれまでの楽しい暮らしが終わるんだな~と残念な悲しい気持ちでした、墓穴を掘る処でした」

「じゃこれまで通りと言うことで、乾杯」

「乾杯」

二人は飲んでいたマティーニとビールで乾杯した。

「ところで普通の人は墓穴何て言葉を使いませんよ、普段の会話に」

「そうですか???今の場面にはぴったりだと思いますが」

「うーん、確かにぴったりなんだけど」

などと二人はこれまで通り何気ない会話を楽しんだ。

「私は空手ですけど清一郎さんは何ですか」

「少林寺拳法ですよ」

「えぇ~、打撃系ではないんですか」

「私も最初は空手の道場に行きました、フルコンタクト系です。暫く通いました、ですが、ある日、試合をした時に余りの顔面への防御の無さに驚きました。」

「それで止めたのですか・・・まさか入れちゃったんですか」

「流石、経験者ですね、打つと言わないで入れると言いましたね」

「言われるとそうですね・・・普通は拳で打つ・・・でもあの世界では拳は入れる物ですね・・・それで入れたのですか」

「入れました」

「どうでした、入りましたか、それとも・・・」

「見事に入りました、鼻血ブー・・・と言うやつですね・・・勿論、偶然を装いましたよ」

「悪い人ですね・・・それで、それで」

「フルコンタクトと言っても戦場などの実践では役に立たないと思いましたし、打撃で拳を痛めてしまいました・・・ので骨を鍛える事の方が良いとも思い道場を止めました」

「どうやって骨を鍛えたのですか」

「山でですね、拳と脛を鍛えました、鍛えると言うよりも我慢する方法でしょうね」

「我慢ですか・・・成程、そうかもしれないな~、話は変わるのですが、何を聞いても驚きませんし裏切りません・・・ので正直に答えてほしいんですけど・・・貴方は昔・・・今もハッカーですか」

「・・・・・・昔、ずっと昔はハッカーでした」

「やっぱりね・・・それも凄腕でしょ」

「凄腕かどうかは解らない・・・捕まっていないから、そうなのかな~」

「多分、凄腕ね・・・又、話を変えるけど、どうして貴方は私が何をしても何を言っても許してくれるの」

「・・・・・・私は何時も自分に取って何が一番大事か、誰が大事か・・・を考えています・・・だから大事なものを大事に扱うのですよ、但し限度はありますよ」

「貴方に取って私は大事なの~・・・嬉しい・・・私も大事にします」

「お願いします」

「こちらこそお願いします」

「多くの人は大事にするとどんどんつけあがり無理難題を我が儘を言う様になります・・・そして私の限度を超えます」

「貴方の限度を超えるとどうなるのですか」

「別れるだけですよ」

「相手が反省したら」

「無駄ですね・・・又戻ります、考える機会も時間もたっぷりあったのですから・・・ね」

「復縁はない・・・でしたか」

「ありません」

「解りました・・・大事にします」

「お願いします」

「こちらこそお願いします・・・またまた話を変えますが良いですか」

「どうぞ」

「次は何処へ行って何をするのですか、計画はありますか」

「今の処ありません・・・何か希望はありますか」

「アメリカの草原と砂漠にカナダの氷の世界・・・最高でした、私ってマゾっけがあるのかな」

「ボディビルダーとか一流のアスリートは少々マゾっけがある・・・必要なのかもね」

「私も貴方も多分ありますね・・・処で今度はアマゾン・・・どうですか」

「アマゾン・・・ね~・・・考えてみます」

「お願いします」

「ありがとう、貴方は新宿の事件が続いてほしく無いのですね」

「すみません・・・やはり貴方には解っちゃいますね」

「ありがとう」

「今日は泊りOKなので部屋で飲みませんか」

「そうだね・・・君は何でも覚えが早いね」

「まぁ、エ・ッ・チ」

二人は店を出て銀座の街を歩き始めた。

歩きながら期せずして二人は同じ事を考えていた、それはアメリカへの旅行の思い出だった。

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