第23話 雪恵の心の内
雪恵は不思議に思っていた。
自分は幼い頃から恥ずかしがり屋で内向的だった。
見かねた両親が近くにあった空手の道場に連れて行った。
だが雪恵は嫌がり両親が何度も言い聞かせ何度連れて行ったが良い返事をしなかった。
暫く経って雪恵の方から道場に通いたいと言った。
大人になって母親に「何故私は道場に通う様になったの」と尋ねた。
その時は忘れていたからだ。
母は最初を省き雪恵本人から言い出した様に言った。
だが、今は思い出していた、その頃の雪恵は学校でいじめられていたのだ。
そして悩みに悩み達した結論が自分が喧嘩に強くなれば他人からのいじめに寛容に慣れるのではないか・・・と言う事だった。
幼い頃は寛容などと言う言葉は知らなかったが自分が強ければ他人が危害を加えない・・・のでは・・・と言うものだった。
実際はどうだったかと言えば結局、茶帯になった直後に学校で何時ものいじめにあった時に手と足が出てしまい三人の女と二人の男の子を倒し泣かせてしまった。
相手側の人数が多い事と周りの子供たちの証言でお咎めは無かった。
それ以降、学校では生徒も先生も腫物に接する様で違う意味でのいじめの様で浮いた存在となった。
そのせいか空手に熱中して行った。
学校での事件の後、当然親が呼び出された。
母親は担任の先生と生徒指導の先生に謝り「空手を使わない様に言っていたのですが」と言い訳していた。
可笑しな事に家に帰る途中でファミレスに寄って「何でも好きな物を食べて良い」と言われ「全部盛りのパフェ」を注文して良いかと尋ねると母はニコニコ笑いながら「勿論」と言って自分も同じ物を注文し二人で豪華に食べた。
母は帰宅途中も帰宅してからも一切叱らず逆に怖かったのを雪恵は覚えている。
母は父に伝え父から叱ってもらうつもりだと雪恵は思っていた。
雪恵は父の帰りを恐れその時が遅くなる事を願った、だが父は何時もの時間に帰宅し皆で食事をしている時に母が父に学校での事を伝えた。
雪恵は箸が止まり父からの叱りの言葉を待った。
父が言った。
「それで母さんはどうしたの」
母は帰りに二人で豪華なパフェを食べた・・・と言った。
それを聞いた父は私の頭に手を当てて優しくポンポンと叩くと言った。
「良くやった・・・だが・・・相手が仕掛けてくるまでは手・・・足も出しては駄目だよ・・・勝っても後味は決して良くないだろう・・・相手が仕掛けてきたら今回の様に遣っ付けなさい・・・後始末は親の私達が着ける・・・いいね」
私は余りの驚きに漫画の様に口をポカーンと空け両親の顔を見た。
二人は嬉しそうにニコニコとしていた。
「私達はね~お前が内気で内気でどうしようか・・・と悩んでいたのよ・・・だから嬉しいのよ・・・ねぇお父さん」
「あぁ~我が子がいじめに合って泣いているより断然この方が良いね」
「えぇ~道場は正解だったわね」
父親が時代劇が好きで一緒に見ていた。
そんな中に「剣客商売」と言う番組があった。
そこに出てくる江戸時代の武家の娘が田沼意次の娘で幼い頃から剣術を修行し年頃に成長し父親から結婚を勧められた時に言った言葉に雪恵は共感した。
娘が言ったのは「私よりも強い人でなければ嫌」だった。
劇中では実際に幕府の有力者の父親に繋がろうと何人もの見合いをするが必ず剣術の試合をして負かしていた、当然、見合いはご破算だった。
雪恵は強く強く共感し女が強くなるのも考えものかな~とも思った。
雪恵は中学、高校、大学、社会人・・・と良く男性に声を掛けられた。
「芸能人になりませんか」「歌手になりませんか」「モデルになりませんか」との誘いもあった。
中学と高校の時に付き合った男性はいた、だが今思えば好きだからと言うよりも回りの同姓の友達の真似をした程度だった。
大学、社会人になってからの男性の誘いは狙いが露骨に感じ拒否し続けた、勝手な思い込みも多々あったとは思うが、その時そう思ったものはしようがない。
幼い頃の内気な雪恵が成長するに従い空手の影響のせいかとてもとても活動的になって行った。
何もまずやってみるの精神でチャレンジし面白くないと感じるとある程度のレベルまでやり続け達成するとスッパリ止めてしまった。
雪恵には決意があった、最初につまらない、面白くないと思ってもレベルが上がると面白くなるものもあると言う事と面白くない又は辛いと思った時に直ぐに止める事は自分の為に成らない。
今後の長い人生で嫌な事もやらなければならない事も多々あるはずでそんな時に逃げる様になってしまう人間になると思ったのだ。
成長した自分が思いだしても幼い少女が良く考えたものだと思った。
今の自分は「シツコイ」と思える程に頑張る人間だと自負しいる、そんな自分を自分が育てたのだと思っている。
無論、最初の最初のきっかけとなる空手道場を進めてくれた両親には感謝している。
それ程の自分が何故、何故、清一郎さんにはこうも容易く心を開いたのか・・・不思議だった。
新宿の事件報道では犯人は超一流のスナイパーで忍者の様な人物だと言っていた。
それを聞いて清一郎さんなら出来る・・・かも・・・と思った時に何故か、怖いとは思わずに手助けしたいと思った、そんな自分の気持ちに驚き、そして何故か嬉さが込み上げた。
勿論、清一郎さんの奥さんと子供の不幸を知っていたからだ・・・が。
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